誰しも、人生で一番美味しかった料理がある。
味はもちろんのこと、共にいた仲間。感じた想い。交わした言葉。目にした風景…。様々なことが重なり合って、美味しい想い出を創り上げている。
そんな、忘れられない最高の料理を語る番組『人生最高レストラン』。これは当番組で紹介された一品を、ライター松浦達也が実際に食し、その想い出を追いかけた記録である。
ライター紹介
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松浦達也
- ライター/編集者。「食べる」「つくる」「ひもとく」を標榜するフードアクティビストとして、テレビ、ラジオなどで食ニュース解説を行うほか、『dancyu』から一般誌、ニュースサイトまで幅広く執筆、編集に携わる。著書に近著の『新しい卵ドリル おうちの卵料理が見違える』ほか『家で肉食を極める!肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』(ともにマガジンハウス)など。
「上海家庭料理」を出す店に行くと元気が出る。新宿歌舞伎町の朝まで営業している店も、中野のあの食堂もそうだ。共通するのは、料理がおいしいのはもちろん味がやさしいこと、客も含めた店の雰囲気がいいこと、そしてマダムが明るく、訪れると元気になれること。
世田谷にある「大吉」もそうだ。タレントの勝俣州和さんも『人生最高レストラン』で「食べると元気になる料理」を出す店として紹介していた。気働きのする、マダムの気持ちいい接客はもはや日常の光景といえる。
この店ではひとつひとつの皿に「元気の出る」理由がある。どの皿にも「五感が喜ぶ」理由があるのだ。
例えば「上海風黒酢豚」はひとつひとつの豚肉のサイズが大きい。テラテラと光る見た目の迫力に目が喜び、ほおばってまたうれしい。口に運んだ後は、カリッとした衣の食感にトロリと絡む黒酢餡のコントラストも楽しい。香ばしく揚がった豚肉を、きりりと引き締まった味わいの黒酢餡がとろりと包み込んでいる。この黒酢豚だけで、視覚、触覚、味覚はもうご満悦。
では残る嗅覚と聴覚を満たす品は……と言えば、勝俣さんが「人生最高の一品」として紹介した「上海フカヒレおこげ」だ。極論すれば、この一皿で五感すべてが刺激される。
まずこんな風におこげとフカヒレ餡が提供され……。
おこげの上から豪快にフカヒレの餡がかけられる。揚げたてのおこげに熱々の餡がかかると「バチバチジュワーッ!」という音とともにもうもうと湯気が立ち上る。
聴覚と視覚が刺激され、香ばしさが嗅覚を直撃する。フカヒレはバラバラにほぐれた散翅(サンツィー)だけでなく、高価な丸ごとの排翅(パイツィー)も使われ、とろとろと舌の上でほどけていく。
ああ、「官能的」とはこのことか。もちろん味覚については説明するまでもない(しかもこれでお値段2500円という衝撃)。
どこかのテーブルでこの品が供されると周囲の客の五感も刺激され、次々に注文の声が上がるのも当然。人はこの一皿の刺激に耐えられるほど強い生き物ではない。
ランチでも評判の五目チャーハンは繊細な火入れが施されたエビもプリプリした食感で、透明感ある見た目に加えて、ほどよい弾力がある。「パラパラ」を誤解した、炒めすぎのチャーハンとは対極にある仕上がりだ。
チャーハンは米の水分が感じられるしっとり感を残しながら、口に運んだ瞬間、パラリとほどけて弾ける。このチャーハンは唇に触れた時点で心地いい。
しかもこの店、ほとんどのメニューで持ち帰りができる。時折、何かの差し入れなのか「5人前」「8人前」などまとまった量を「おみやげ」で持ち帰る客もいる。
店名の「大吉」は、「鏡に写った(左右対称の)文字の縁起がいい」と近所の「大吉寺」「大吉稲荷」の名前にちなんだ。1999年に開店したときにはラーメンと餃子だけの店だったが、少しずつ「上海家庭料理」のメニューを増やすとともに客をも増やしてきた。いまでは地元客はもちろん、遠方からの客も訪れ、連日大盛況。
渋谷駅からバスに乗り、世田谷区役所入口下車徒歩0分。こういう店が通い得る圏内にある。それだけで人生はもう「大吉」である。
人生最高レストラン
TBSテレビ・土曜よる11:30〜 MC:徳井義実(チュートリアル)、笹川友里
ゲストの「人生で最高に美味しかったものの”お話”」が聞ける、新感覚・グルメバラエティ。「人生最高に美味しかったもの」を通して、その人の人となり、価値観、人生が浮かび上がる、まさに人と食は切っても切れない関係だということを教えてくれます。
10月14日(土)のゲストは、スイーツ男子の3人、竹内力さん、亀田興毅さん、本間朋晃さん。
心休まる週末の夜に、美味しい話、奥深い語らいで豊かなひとときを過ごしてみてはいかがですか?