誰しも、人生で一番美味しかった料理がある。味はもちろん、共にいた仲間。感じた想い。交わした言葉。目にした風景…。様々なことが重なり合って、美味しい想い出を創り上げている。
そんな、忘れられない最高の料理を語る番組『人生最高レストラン』。これは当番組で紹介された一品を、ライター松浦達也が実際に食し、その想い出を追いかけた記録である。
ライター紹介
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松浦達也
- ライター/編集者。「食べる」「つくる」「ひもとく」を標榜するフードアクティビストとして、テレビ、ラジオなどで食ニュース解説を行うほか、『dancyu』から一般誌、ニュースサイトまで幅広く執筆、編集に携わる。著書に近著の『新しい卵ドリル おうちの卵料理が見違える』ほか『家で肉食を極める!肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』(ともにマガジンハウス)など。
どうしようもなく凶暴な味を貪りたくなることがある。
特にその代表格と言えるのが、中華における唐辛子の"辣(ラー)"、花椒(ホアジャオ)の"麻(マー)"、それににんにくと油をかけ合わせた味だ。この4つをがっつり効かせるほど味は凶暴に、そして魅力的になる。
そこにとどめを刺すのが炭水化物である。俳優の高嶋政宏さんが一時期「週3で食べていた」と病みつき歴を告白した南青山『虎萬元』の「水煮牛肉麺(香辛料たっぷり牛肉土鍋めん)」もそんなメニューだ。
しかもご本人の好みを取り入れた「高嶋兄スペシャル」は格が違う。こうである。
「高嶋さんの場合、香辛料の量が普通の方の『追う』『盛る』とはまったく違います。『多すぎでしょ?』というくらい入れてちょうどいいと言ってもらえるんです」(岡田三郎料理長)
ともあれ仕上がりからでは鍋の中身の全容がわからない。今回は作る過程を追っていくことにする。
まず素材は唐辛子、花椒、山形牛。それに豆もやし、チンゲンサイ、キャベツ、きくらげなどの野菜がたっぷり入る。
まず強火にかけた鍋に油を入れ、野菜を炒める。そこに投入されるのが味の骨格を作る麻辣醤だ。
そこに豚骨と鶏ガラでとったスープを入れて煮込み……。
茹でた麺と……。
山形牛を投入する。
全体に火が通り、味がなじんだら、汁や麺ごと土鍋に投入。
すでに十二分に凶悪なものができ上がった気がするが、ここからがいよいよ本番。まずここににんにくが投入される。
さらに追う。
そこに粉唐辛子が降り注ぐ。
まだ終わりではない。中華鍋に白絞油が温められ、軽くふたつかみ分はあろうかという唐辛子が投入され……。
熱々の油ごと唐辛子も鍋へとダイブする。
そして最後に鍋ごと火にかけてグツグツと吹いたら完成である。
「辛いものがそれほど得意ではない僕自身、もともと食べられないくらい辛い料理ですが、高嶋さんの場合はさらに唐辛子や花椒の量が1.5~2倍くらい。にんにくに至っては10倍くらい入っていると思います」
この唐辛子の山はあまりに高く、そして赤い。対峙すると、つい臆してしまいそうになる。だがそこは勇気を持って山に分け入ってほしい。
立ち上る湯気のなか、麺をズズッと一息にすする。確かに熱く、一定の辛さはある。だがその刺激はうまみとやさしさを携えている。いやそればかりか、濃厚なうまみを伴って内側から心身を活性化させてくれる。吹き出す汗のなんと爽快なことか。
この土鍋麺の唐辛子と花椒には舌から全身を貫くようなマゾヒスティックな愉悦がある。だが食べ終えた頃には、晴天の下でスポーツをした後のような爽快感が待っている。
- 虎萬元 南青山店
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東京都 港区 南青山
中華料理
人生最高レストラン
TBSテレビ・土曜よる11:30〜 MC:徳井義実(チュートリアル)、笹川友里
ゲストの「人生で最高に美味しかったものの”お話”」が聞ける、新感覚・グルメバラエティ。「人生最高に美味しかったもの」を通して、その人の人となり、価値観、人生が浮かび上がる、まさに人と食は切っても切れない関係だということを教えてくれます。
次回1月20日(土)のゲストは溝端淳平さん。
心休まる週末の夜に、美味しい話、奥深い語らいで豊かなひとときを過ごしてみてはいかがですか?