連載:カツセマサヒコのRettyの食ヲタクと行く、美味しいごはん

「大衆食堂」の知られざる真実を聞いたら、たくさん通ってみたくなった話

世の中には、とにかく食べることが大好きな人たちがいる。

いろんなお店に足を運んで、「もっとうまい飯はないか」と探していくうちに、いつの間にか人智を超えた知識と情報量を身に着けてしまい、いつしか「歩くミシュラン」なんて適当なあだ名を友人から付けられてしまう人たちもいる。

この連載は、そういった「食ヲタク」の皆さんがオススメする“とっておきのお店”に連れて行ってもらい、一緒においしいご飯を食べながら思う存分「食」について語ってもらうという、大変飯テロな企画です。

さあ、今日も開けてはいけない扉が、勝手に開いていきます。

【今日の食ヲタク】

あっくんこと、Akira Sugiharaさん

居酒屋ジャンル、特に上野エリアで圧倒的な投稿数を誇るRettyトップユーザー。生粋の江戸っ子。普段はシステム系の企業に所属しているが、大衆酒場・大衆食堂・立ち食いそば・ノスタルジー系ジャンルのエキスパート。この日のロケも、浅草の大衆食堂「水口」で17時前からパカパカと飲みながら実施された。

「食べるのが嫌い」な男の子が上野エリアNo.1食ヲタクになるまで

――今日はよろしくお願いします! 乾杯!

乾杯! この時間から飲めるって、いい仕事だよねえ。

――あっくんさんは、いつから食に興味があったんですか?

子供の頃は食べることがそんなに好きじゃなかったんです。むしろ食事の時間が苦痛で、家の中を走り回ってるタイプ。

――そこからどうして、食に目覚めたんですか?

中学一年で上野に引っ越したら友達がいっぱいできて、釣りにハマったんです。最初は池とかで釣っていたんですけど、当時は浅草橋から船が出ていたんですよ。それに乗るようになって、海でアジやカレイを釣って、自分で捌くようになってからですねえ。

――自分で捌いていたんですか!? 中学1年で⁉︎

大漁の日とか、捌くのを母親が嫌がったんですよね。自分で捌いて調理するようになったら、思いの外喜んでくれたんですよ。それが自分の原体験。食べ物って、人を喜ばせるんだなあって感覚になりましたねえ。

――めちゃくちゃハートウォーミングですね。

 今回のお店は、浅草駅から徒歩すぐの大衆食堂「水口」。名物の「まぐろのブツ」は700円なのに量も多く味もしっかり美味しくて驚く。

今回のお店は、浅草駅から徒歩すぐの大衆食堂「水口」。名物の「まぐろのブツ」は700円なのに量も多く味もしっかり美味しくて驚く。

――Rettyに書き始めたのは、いつ頃からですか?

6年前くらいですかね。仕事が辛い時期だったり、親父が亡くなったりとかいろいろあって、あんまり運気が良くないって自分でも気付いているときだったんですよ。それがやっと終わりかけたくらいのときにネット広告でRettyを見かけて、「食べ物にいいねしよう、書こう」みたいなノリを見て、ああ、発信する側もいいかなって思って、ゆるくやり始めたのがきっかけです。

――じゃあ、バナー広告で知ったんですね。誰かに誘われた、とかじゃないのがすごい。

全然そんなんじゃないんですよ。しかも、当時のRettyは今みたく文字数もいっぱい書けなかったし、写真も一枚しか載せられなかったんです。大体は「今回食べたかった一枚」を載せるか、「酔っ払いの顔」か、「白黒にして雰囲気出した暖簾」の写真を載せていたんですけど、だんだん字数制限がなくなって、写真も何枚か増えてきたときに、昔のmixi日記魂に火が着いたんです。

――おお、きちんと読ませるものを書こうと思ったんですね!

そう。そしたらある日、Rettyを読んだ女性2人からFacebookで逆ナンされたんです。「あなた面白いじゃない。ちょっと飲みに来なさいよ」って。

――そんなことってあります!?

僕、そういうの初めてだったんですよ。自分の書いた記事で反響を得られて嬉しかったんですよね。「何月何日。お店はあなたから指定してください」みたいに言われたんです。怖くて、靴下に2万円仕込んで、財布に8千円くらいしか入れないで行ったの。

――カツアゲ準備万端じゃないですか(笑)

そうです(笑)。それで恐る恐る行ってみたら、今もRettyトップユーザーをやられている先輩方だったわけ。で、「いい店いっぱい行っているんだからもっと書け」みたいなことを説教されたんですよね。なんか知らないですけど気に入られて、そこから本気を出して、そしたら、いつの間にか上野で一位、みたいな。

――ただ投稿するだけじゃなくて、発信者同士で集まる場としてRettyがあって、それがモチベーションにもなったんですね。すごい話だ。

富士そばでも味が違う!「路麺店」の奥の深さ

――あっくんさんは、これまで3,500件近いレビューを書いたと伺いました。上野・浅草エリアがその半分くらいかもしれないと聞いたのですが、そのエリアを選んでいる理由は?

僕に子供ができてからわかったんですけど、上野・浅草って、地域の人たちがすごい頑張ってるんですよ。子供を地域で見守るスタンスがあるし。その姿勢を見て、僕も上野をちゃんと「地域」として応援しなきゃって思い始めたのがあって。

――これまた良い話だー……。

それ以降、他の地域にお金を落とすくらいなら台東区に落としたいって気持ちになったんです。あとは、会社の通勤途中で酔っ払うくらいなら、自分のテリトリーで酔っ払いたいって気持ちもありました。

――どのくらいの頻度で通って、レビューを書いていたんですか?

年間600件くらい。今でもそのくらいのペースでやっています。

――一日2件弱? ペースおかしくないですか(笑)

頭おかしいんですよ。Rettyのために体重12 kg くらい増えましたからね。

――いろんな意味で重みが違う。

ナポリタンとアジフライも、名物。ビールが延々と進みます。

ナポリタンとアジフライも、名物。ビールが延々と進みます。

――さすがに年間600件も投稿したら飽きそうですけど、どうしてそこまで食にハマれたんですか?

たとえば「富士そば」や「ゆで太郎」といった、いわゆるリーズナブルなチェーンの立ち食いそば屋さんっていっぱいありますよね?

――はい。よく見かけます。

各チェーンには麺の茹で方やつゆの量ひとつひとつにマニュアルがあるんですけど、それでも各店舗で味は違うんですよ。

――ええ? 店舗によってですか?

そう。会社からしたら良くないことだと思うんですけど、でも明らかに違う。「あの時間の、あのおじちゃんが作るそばがうまい」とか、あるんです。全国340〜50円で均一なのに、かたやこっちが残念な味で、もう一方が超熱々でパリパリの職人気質の天ぷらが揚がっていたら、そっち行きたいじゃないですか。そういうことが分かってきちゃうと、何度も通ってしまうんですよ。

――「富士そば」でそれだけ深かったら、そりゃあ延々と行きますよね……。でも、食に詳しい人ってチェーン店とか安い店には行かないイメージでした。

そうでもないですよ! 「富士そば」などのお店は、「路麺店」って言われるんです。路傍の「路」にそばの「麺」。

――なるほど! 「路面店」じゃなく、「路麺店」。

「富士そば」「ゆで太郎」「小諸そば」の三大チェーン以外にも個人店がいっぱいあるんです。100年くらい続く店もたくさんあります。台東区はとくに多いんですけど、そういうところって、みんな汁の色も違うし麺の太さも違うし、天ぷらの具も違う。確かに安いですけど、値段に関係なく層があるってわかっていることが大事だなって思うんですよね。

――どの世界も、深いなあ……。

もっと突き詰めれば、欧米諸国は20世紀以降にレヴィ=ストロース(※フランスの社会人類学者)がブラジルとかアマゾンに行って、やっと異文化を認めた事実があるんですよね。それまでは白人以外の文化を何も知らない時代があったんですよ。路麺店の歴史は、それに似ていると思うんですよね。

――そばから人種の話まで発展するとは、読者誰も予想できなかったと思います。

この店にあるナポリタンもそうですけど、同じ「ナポリタン」でも、店によって全然違うわけです。ひき肉だったり、鶏肉だったり、ベーコンだったり、ソーセージだったり。まだまだ研究の課題があることに気付けたのも、Rettyで発信するために食べたからこそ気付けたと思うんですよね。

知られざる大衆食堂の歴史

――今回、どの料理も美味しかったんですけど、どうして水口さんを選んだんですか?

実はフレンチとかイタリアンも好きなんですよ。トンカツも好きですし。でも、大衆酒場・大衆食堂・立ち食いそば、あと昭和のノスタルジーを感じられる店が、僕が大事にしたいテーマなんですよね。食はいろいろ好きですけど、「文化として残したい」って意味では、「上野・浅草界隈のこういうお店」だったんです。

――そうか。「文化として残したい」って切り口、めちゃくちゃいいですね。

大衆食堂や大衆酒場、立ち食いそばは西側からどんどんなくなってきているので、東側に集まっているイメージがあるんです。昔は吉祥寺くらいまであったんですよ。

――吉祥寺に大衆食堂がいっぱいあったなんて、今ではあまりイメージできないです……。

あと、大衆食堂って戦前はあんまりないんですよ。

――え、戦後にできたんですか?

ちゃんと遡れば江戸時代からあるんですけど、大衆食堂が普及したのは実は戦後なんです。物資が不足した結果、外食券食堂っていうのかな? チケットを使える店だけで外食が許された。それが大衆食堂の走りなんです。それで、やっぱり大きな駅の近くに人が集まるというのもあったので、上野・浅草にとくに多いんですね。

――めちゃくちゃ面白い。

だから大衆食堂って、日本の外食文化の一つの源流じゃないかって思うんです。あとは、「東京都指定食堂」っていうのもあるんですよね。

――東京都指定食堂……?

これは根津の方にまだ残っているらしいんですけど、「震災時に来てくれたらタダで食べさせてあげるよ」ってお店が、東京にもいくつかあったんです。

――へええ面白い!

「大衆食堂」って、本来はその役割も持っているはずだったんですよ。

――知らなかったです。

縦長の看板で「東京都指定食堂」って書いてあったら、それですね。だから、意外とシビアな問題として見ても、大衆食堂は残さなきゃいけないんですよ。店主さんはどんどん歳を取っちゃうし、後継者もいない。チェーン店の流れに押されて減って来ているのもあるし。僕としては、それをどうにか阻止したいっていう気持ちもあって、今回もこの店を紹介しました。

――ただ美味いから、安いから、ではなかったんだ……。すごい使命感……。

明日ご飯が食べられない可能性もあるから、どんぶり飯をお腹いっぱい食べる。そんな気持ちがあるからか、全部量が多いんですよ。野菜もたっぷりだし、これが美味しい。水口さんみたいなお店をこれからも大事にしていきたいって思ってます。

――「安くて美味い」を超えた存在理由があること、勉強になりました。ありがとうございました!

おわりに

こうして上野エリアNo.1食オタク・あっくんさんの取材は終わりました。

「大衆食堂かあ、ゴチャゴチャっとして、騒がしいのだろうなあ」くらいのイメージで軽率に取材に伺ったのですが、ワイワイと飲みながらも芯の通った話をされるあっくんさんの口から大衆食堂の真実を聞いて、目の覚める思いでした。

世の中は、僕の知らない世界で溢れている。
次回も食のディープな世界の片鱗を探しにいきます。

ライター紹介

カツセマサヒコ
カツセマサヒコ
Twitterのフォロワー数11万以上。妄想恋愛ツイートが話題の、通称"タイムラインの王子様"。取材記事・エッセイ・小説・作詞・脚本など書くこと中心に幅広く活躍している。
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