サッカー日本代表として活躍し、29歳という若さで現役を引退した中田英寿氏。
世界の第一線で活躍した中田英寿氏は、なぜ「日本酒」に惹かれたのか?
中田英寿氏が自身でプロデュースする日本酒イベント「CRAFT SAKE WEEK(クラフト サケ ウィーク)」が4月7日(金)から六本木ヒルズで開催されるのに先立ち、中田氏が「日本酒」に辿り着くまでの歩みを紐解く。
旅のテーマは「人との出会い」
――サッカーの引退後に日本各地を巡られた際、何か「テーマ」みたいなものはあったのですか?
その土地に住んでいて、生活に密着するものを作っている人たちとの出会いを旅のテーマにしていました。たとえば、工芸家や農家、それから酒蔵で働く人たちです。
――どうして「人」をテーマにされたのでしょう。
その土地の文化は何だろうと考えたとき、文化=人々の生活の営みだなと。
食事をするのに必要な器を作ったり、豊作を望むために神社へお参りしたり……全て、長く続いてきた生活だと思っています。
――たしかに。そういったものづくりをする人たちと出会って、どんな発見がありましたか?
手を使って何かを作り出している人たちと会話することが本当に楽しいです。
作るものの素晴らしさはもちろん、それ以前に彼らと関わることが楽しかったですし、好きな人たちだなと思えました。
――そうやって、徐々に仲良くなっていかれて。
仲間になると悩みを打ち明けられるようにもなりますよね。酒蔵で働く友人からは、日本酒業界が衰退していること、なかなか売れないこと、跡継ぎが不足していることなど、いろいろ聞くこともありました。
日本酒の銘柄を10言える人は少数派
――日本酒業界の課題ですね。
日本酒業界の「外側」から見る僕としては、とても可能性のある業界であるのに不思議に感じましたね。海外では和食文化が広がっていて、和食屋には日本酒が置いてあります。
なので、もっと広がっていいはずなのに、と。
――広がる素地はあるのに……。
それでも広がっていないのが現状だと思っています。たとえば、日本酒の銘柄をいくつ知っているでしょうか。
日本酒という商品は知っていても、銘柄やブランドを覚えている人が少ないことに気づきました。
――たしかに。「辛めな日本酒をください」みたいなオーダーをする人は多いです。
問題の根本にあるのは、いい日本酒があっても、きちんとした情報が伝わっていないことだと思いました。
この状況をなんとかしようと、「CRAFT SAKE WEEK」をはじめとする、日本酒に関わるいろいろな活動を始めました。
――CRAFT SAKE WEEKというイベントについて伺いたいんですが、10日間のイベント期間中、日替わりでテーマ
を設けて1日10蔵が日本酒を振る舞うとお聞きしました。1日10蔵に絞っているのは特長の1つですよね。
全国には1000強の蔵元があるといわれます。各蔵元がブランドを2つ持っているとすると、単純計算で2000程度のブランドが存在します。
さらに、純米や特別純米、大吟醸など、商品点数で数えると、各蔵元につき20〜40点くらい持っていることになります。
――もはや、日本全体で日本酒の商品点数は何万もある、と。
となると、ほとんど知らないというのも、無理はないですよね。実際、日本酒の銘柄を聞いても10も挙がらないですから。
――私も10も言えないです……。
自分が飲んだ銘柄、好きだと感じた銘柄を覚えて帰ってもらいたいと考えて、1日10蔵に限定しました。
中田英寿氏が監修した日本酒記録アプリ「Sakenomy」
――それでも覚えられない場合は、中田さんが監修された日本酒を楽しむアプリ「Sakenomy(サケノミー)」を使うのも手ですね。
ラベルを撮影してアプリに取り込むと、自分がどの日本酒が好きか、どれを美味しく感じたか、見直すことができますし、それに似たお酒をレコメンドする機能もついています。
英語や中国語など外国語対応もしているので、海外の方にもおすすめです。
――とてもわかりやすく、使いやすく作られたアプリですよね。その考え方は中田さんが制作に携わられた日本酒セラー「The Cellar "Sake Master"(サケマスター)」にも共通しているように思います。
昔は日本酒を管理するのに適した温度があるということを知りませんでした。蔵元に足を運ぶようになってから、様々な蔵元がお酒をマイナス5度などの低温貯蔵をしていることを知りました。
でも、蔵元を離れ、販売されている日本酒は飲食店のカウンターに常温で置かれていたり、ワインセラーに入れられていたり、適切な温度で管理されていることが少ないように思います。
――飲食店の方も日本酒の保管方法について、あまり深い知識がないのでしょうか?
そうですね、温度管理の大切さを広めたいと思い、開発したのが日本酒セラーです。
日本酒セラーで適切な温度で保管することで、美味しい日本酒を美味しいまま管理できます。
知識や情報はあるに越したことはないですが、「こうしなさい」「ああしなさい」とそれらを押しつけてしまっては、みんな楽しくないですから。
食・アート・音楽も楽しめる「CRAFT SAKE WEEK」
――いよいよ東京・六本木で4月7日から始まるCRAFT SAKE WEEK。楽しい仕掛けが満載のイベントですが、こだわったのはどんなところですか?
イベントの中心にお酒を置いていますが、お酒好きな人だけではなく、食に興味がある人や、デザイン・アートが好きな人、音楽が趣味の人など、いろいろな人が、いろいろな方向から興味をもって楽しみやすい設計にしました。
――お酒を知ったり、魅力に気づいたり、洗練された空間の中で「新発見」を楽しむイベント、という印象です。
食事の内容によって、器や飲み物も選びますよね。また、お店では音楽がかかっていたり、雰囲気に合う空間が作られているのと同様に、日本酒や食事、会場のインスタレーションや、音楽など、ひとつひとつを分断するのではなく、すべてつないでいるのもこのイベントの特長だと思います。
――昨年は六本木のみでの開催でしたが、今年は博多でも開催されましたね。
昨年にイベントを開催する前から、東京で継続的に実施するのに加え、全国でキャラバン的に開催したいな、という思いがありました。
とくに東京や京都、大阪などで外国人観光客は目立ちますが、博多にもアジア圏の人を中心に、多くの観光客が訪れています。
情報の発信基地でもある博多は、開催したいエリアの候補地として考えていました。
――中田さんの活動を通じて、日本酒が文化として国内外にもっともっと広まっていけばいいな、と願ってなりません。
僕自身、きちんと情報を出しながら、文化としての日本酒を広めています。多くの人に日本酒を理解し、発見してもらうフォーマットを作るための活動を、今後も続けていきたいと思います。
CRAFT SAKE WEEK 開催概要
<六本木>
■イベント名 : CRAFT SAKE WEEK(クラフト サケ ウィーク)at ROPPONGI HILLS
■開催期間 : 2017年4月7日(金)~4月16日(日) 12:00~21:00 (L.O. 20:30)
■会場 : 六本木ヒルズアリーナ (東京都港区六本木6丁目11−1)
■入場料 : CRAFT SAKEスターターセット 3,500円(税込) : 内訳:グラス+お酒・食事用250円コイン6枚分 : ※2回目以降の入場料は、イベントで配布したグラス持参で無料
■参加蔵数 : 各日10蔵ずつ 計100蔵参加(予定) : ※各蔵 3酒出展予定
■レストラン数 : 10店
「CRAFT SAKE WEEK」イベント公式サイト: http://craftsakeweek.com/
ライター紹介
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池田園子
- フリーの編集者/記者。女性向けメディア「DRESS」編集長。著書に離婚経験後に上梓した『はたらく人の結婚しない生き方』など。プロレスが好きで「DRESSプロレス部」を作りました。