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連載:マッキー牧元の"変態メシ"

【変態メシ】人形町今半・究極の裏メニュー!色気ある香りが淫らな「熟成肉のすき焼き」とは?

ライター紹介

マッキー牧元
マッキー牧元
株式会社味の手帖編集顧問。タベアルキスト。「料理王国」他14媒体で連載中。フレンチから居酒屋まで全国、世界中で年間600食を食べ歩く。2017年7月にRetty・TOP USER PRO就任。

我、変態料理を愛す

変態が好きである。

変態の料理人が好きである。

「変態」という言葉を辞書で調べると、動物が発育の途中で、時期に応じて形を変えること。続いて「変態性欲」の項目があり、一般的に健全でないとされる性的嗜好。変態性欲の略とある。

しかし現代では、「エッチ」という程度の軽い意味にも使われ、また一般常識を超える技術や性能、思考や行動、またそれを備えた人物を示す場合もある。 では「変態料理人」とは何か。

今、料理技術は限界まで爛熟していて、食材は国境を超え、調理方法も、料理道具だけでなく医学機械まで駆使して、様々な化学的な手法が開発されている。 それなのに、ああそれなのに、まだまだ食材をもっと生かす方法があると考える人がいる。

一般常識に疑問を持ち、それが利することにならないかもしれないのに、新たな手法を探り出そうともがく、一部の人たちがいる。そんな人たちが「変態料理人」である。

彼らは日々考える。試しては失敗し、何回も挑戦する。 大抵は、既存の手法と違って非効率的であり、手間がかかる。「そこまでやらなくてもいいんじゃないの?」と思わせる、やり方である。

だが、彼らはその手間や労力を厭わない。試行錯誤を繰り返しながら、新しい手法、新しい味を生み出すことに至上の喜びを感じているのである。

「新しいご馳走の発見は、人類の幸福にとって、新しい天体の発見以上のものである」と述べたのは、19世紀に「美味礼讃」を書いた、フランスの食通ブリヤ=サヴァランだが、変態料理人たちの苦労は、我々にこの上ない幸せを運んでくれるのである。

食欲や美味願望を満たしてくれるだけでなく、知的好奇心をも満たしてくれる。
ゆえに変態料理人を愛す。

「熟成肉」を極めし変態

さて、第一回の変態さんは、「人形町今半」の熟成肉のすき焼きに登場願おう。

「熟成肉」という言葉は、2006年ごろから出始め、一昨年から一気に加熱して、「熟成肉」をウリにした店が次々と開店した。

では、「熟成肉」とは何だろうか? その利点は何だろうか?

まず「熟成」というのは、微生物の働きで特定の物質を生成する「発酵」とは異なり、「時間と空間」がキーワードになる。

つまり、食材自体が持つ酵素と外的環境(温度、湿度、時間、空間)の総合作用によって食材が分解されて、特殊なうまみ成分・生命活動に不可欠な成分でもあるアミノ酸が出ることを指す。

肉に関しては、最近の手法ではなく、元々日本には「枝枯らし」と呼ばれ、枝肉のまま風を当てずに熟成させるという伝統手法があった。

しかし、1979年に登場した真空パック流通の影響で、乾いた状態で熟成させていくという方法は廃れていく。

それと同じような手法を復活させたのが、昨今のドライエイジングという熟成肉の登場である。そのメリットとは、①肉が柔らかくなる ②うま味が増す ③独特の熟成香が増すということになる。

そんな熟成した肉を、すき焼きにするのだからたまらない。同じく熟成した醤油や味醂を使った割り下と合わせるのだから、なおさらたまらない。

「人形町今半」の変態ぶりは、熟成肉がブームとなっていく2006年以前から、熟成肉を研究していたことにある。

副社長の高岡哲郎さんがいうには、「子供の頃に店の厨房に入った時に嗅いだ甘い肉の香りが、今はない。なぜだろう?」そう思って調べてみると、その正体は枝枯らしの肉の香りだったのだという。

それから様々なやり方を試行錯誤し、理想の熟成肉を作り出せるようになっていく。

しかしそれまで、かなりのロスがあったと思われる。 企業として効率を求めるなら、やらないほうがいい。ただ、肉のおいしさとすき焼きという料理の可能性を求めて、研究を続けた。

こういう点が変態である。その先に利となるかどうかという判断よりも、肉とすき焼きへの愛が先行している。

人形町今半の裏メニュー「熟成肉のすき焼き」

人形町今半の熟成肉のすき焼きは、メニューにはない。食べるなら、事前予約が必要で、頼めばそれぞれのコースに加えてくれる。

当日は、昼のメニューにつく肉三枚のうち一枚を熟成肉に変えていただいた。最初なら、こうした普通の肉と熟成肉の食べ比べが面白い

まずは、通常の肉を食べてみる。仲居さんが、割り下を鍋に少量注ぎ、肉を一枚ずつ、焼くように炊いていく。

すき焼きでは、焼いて焼き目をほんのりつけていきながら、割り下の味がまとわりつくように加熱していく、この「焼くように炊く」という技が必要である。 つまり「すき焼き屋」では、そうした最終調理を行う仲居さんの腕前が、最も重要なのである。

だから大抵のすき焼き屋では、ベテラン仲居さんと経験の浅い仲居さんでは、味に違いができてしまうのだが、「人形町今半」では差異がない。

この店では、仲居さんがお客の前に出る前に技能試験というものがあり、店長や料理長、経営陣の厳しい目にかなったものだけが、すき焼きを炊けるようになるという。この辺りも変態性があって、好きなのである。

さて、通常の肉が出来上がった。小鉢に溶いた卵に落として、口に運ぶ。

肉の脂の甘みが舌に広がり、そこへ割り下の甘辛味、卵の甘みが追いかけ、うっとりとした気分を呼ぶ。

肉は噛むまでもなく、溶けるよう消えていき、脂は舌に残ることなく、すうっと切れていく。

さあ次は、熟成肉の出番である。すると仲居さんは、 「味わいが違いますから、鍋を変えさせていただきます」と、鍋を変えた。

同じように割り下を少量注ぎ、焼くように炊いていく。肉の色が変わったところで裏返し、数秒して皿に盛った。

「味わいが濃いので、卵につけてもかまいませんが、何もつけない方がおいしいと思います」という言葉に習って、口に運ぶ。

ああ。なんたることだろう。 そこには先ほどの肉のような、脂の強い主張はない。

醤油や甘みと馴染み、優しく口の中に滑り込む。割り下自体の味もまろやかになったかのような感覚がある。

さらには噛み始めると、ナッツに似た甘い熟成香が漂って、肉の滋味と渾然と入り混じり合う。

これが熟成肉である。割り下と馴染んで味を丸くしながらも、色気のある香りを漂わせて、人間の食欲本能を揺さぶり、精神を勃起させる。

こんなすき焼きを生み出す人たちは、やはり「変態」である。

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