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連載:塩見なゆのせんべろ酒場

イカさえあれば、他にツマミはいらない。荻窪のイカ専門立ち飲み「やきや」で人生の悦びを知る

こんにちは。年間2,000軒ハシゴ酒をしている酒場案内人・塩見なゆと申します。

全国均一のサービスを提供するチェーン店と違い、個人経営の酒場はその土地を色濃く反映しています。
それが入店のハードルではありつつも、何よりの酒場巡りの魅力でもあります。

今回ご紹介する酒場は荻窪から。
中央線沿線は昔から文士がこぞって暮らす街として知られ、現代も作家や演奏家、演劇などの芸術や制作に携わる人々が多く、大衆酒場に集う顔ぶれも一般的なベッドタウンとはやや違った雰囲気があります。

この「中央線らしさ」を感じられるお店のひとつ「やきや」をのぞいてみましょう。

都内で唯一!? イカ専門立ち飲み

JR荻窪駅から商店街に入り、飲み屋の赤ちょうちんが揺らめく路地に入ってすぐの立ち飲み「やきや」。ここは都内では珍しいイカを専門にした立ち飲み屋です。

以前は荻窪銀座商店街にありましたが、6年前に現在の場所に移転。
店はきれいになりましたが、漂う雰囲気は昔の年輪を引き継いでいるように感じます。

入ってすぐに焼き台があり、厨房を囲むようにカウンターが奥へと伸びています。
壁とカウンターの間の空間はわずかなので、立ち飲む人たちの後ろをスミマセンと言いながら通らなくてはいけません。この人間味溢れる小さなマッチ箱のような空間がまた魅力。

質がいいのにとってもお手頃価格

さて、気になるメニューですが、これが驚くほど安い。お酒は一杯250円、おつまみは170円からで、もちろんお通しもなし。
ちょいと小銭を持っていくだけで、専門店ならではの鮮度抜群のいか刺身が食べられるのだから人気になるわけです。

八戸から直送されてくるイカは、透き通るほどの鮮度。まだコリコリとしていて、甘さと爽やかな海のコクが余韻としてかすかに残ります。北の海で獲れたイカに合わせるお酒は、同じく北の地で作られた日本酒「北の誉」。酒と肴の産地が近いので、間違いないマリアージュ。

こちらは、いかみみ刺身。早い時間に売り切れてしまうこともあり、「今日はまだ"みみ"ある?」なんて会話が聞こえてきます。
200円とは思えないほどしっかり盛られています。特別イカが好きという人でなくとも、ここなら1人でいか刺身・いかみみ刺身の2種類を食べ比べたくなるかも。

大根と一緒にクタクタになるまで煮たイカ大根(残念ながら、冬季限定)は常連さんの多くが支持する人気メニュー。
見た目ほど味は濃くないですが、ほっこりとした味わいで日本酒が進みます。

やきやでよく飲まれているのは、ホッピー。
甲類焼酎をたっぷり注いでくれる濃いめが人気の秘訣。
製氷機ではなく、氷屋の砕き氷を使用しているので、氷入りのホッピーの美味しさを再発見できます。

ホッピーには揚げものを。
げそ揚げは懐かしさのある天ぷら風竜田揚げ。
醤油味の衣とイカの旨味が絶妙なバランスです。

ここで一旦ウィスキー。
水割りを頼むと、北海道生まれのウィスキー・髭のニッカのボトルがそのままでてきます。
あまり知られていませんが、これは予め淡麗水で割られて瓶詰めされています。

いかなんこつ焼きはくちばしの部分。
こりこりとした食感が楽しく、ゆっくり飲んでゆっくり食べられます。
このくらいまで飲み進めると隣同士のお客さんと会話が弾んでいて、串をもって食べられるのがちょうどいい。

美味しく安いだけじゃない価値がある

八戸直送のイカとお酒がリーズナブルに楽しめる立ち飲み「やきや」。
それはもちろん魅力なのですが、ここは店に集う常連さんたちの雰囲気もとてもいい。
最近は女性のお客さんも多くなり、敷居は下がりつつあります。

さぁ、魅惑の荻窪酒場でイカ三昧といきましょう!

【本日のお会計】
ホッピーセット 320円
日本酒北の誉 250円
ブラックニッカ 380円
いか刺身 200円
いかみみ刺身 200円
いか大根 200円
お会計=1,550円

訂正とお詫び:記事初出時に、八戸が北海道に所在するような記述がありました(正しくは青森県)。間違いを訂正し、謹んでお詫び申し上げます。(2017年5月31日)

ライター紹介

塩見なゆ
塩見なゆ
酒場案内人/フリーランス。作家で飲兵衛の両親に育てられた生粋のお酒好き。毎日5軒以上はハシゴ酒、年間2,000軒の酒場を飲み歩いています。Web・TV等で酒場情報を発信中。
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