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連載:マッキー牧元の"変態メシ"

【マッキー牧元】代々木公園「おそうざいと煎餅もんじゃ さとう」が魅せた”鉄板ロマン”に身悶えた夜

ライター紹介

マッキー牧元
マッキー牧元
株式会社味の手帖編集顧問。タベアルキスト。「料理王国」他14媒体で連載中。フレンチから居酒屋まで全国、世界中で年間600食を食べ歩く。2017年7月にRetty・TOP USER PRO就任。

長い間、「もんじゃ焼き」をバカにしていた。

良さはわかるが、積極的に食べようとは思わなかった。

発展性がない。同じように具材が限られたお好み焼きと比べても、焼く人によって味が変わるといった深さもない。

あれは子供の食べ物だ。と、偏見に満ちた目で見ていた。

しかしそれを、一人の変態が改革した。

いや、改革というより、発明に近い。

その男、缶詰にロマンを抱く

今回紹介する変態さんは、佐藤幸二さんという。

代々木八幡にてポルトガル料理「クリスチアノ」や、渋谷でタイ料理「パッポンキッチン」などを展開する、経営者であり料理人である。

彼の変態ぶりに気づいたのは、「マル・デ・クリスチアノ」という、魚介のポルトガル料理店を彼が始めた時だった。

「牧元さん、こんなものを作ったんですよ」と差し出したのが、ひとつの缶詰だった。

大金をはたいて、缶詰を作る機械を購入し、缶詰作りを始めたというのである。鳥や魚の煮込み料理や、ナポリタンまで缶詰にする。

研究するうちにハマり、今では小さな缶詰工場まで作ってしまった。

「缶詰はロマンなんです。」動機を聞くと彼はこう答えて、欲しかったおもちゃを手に入れた子供のような、屈託のない笑みを浮かべた。

ビジネスではなく、ロマン。しかも、常人には少し理解しがたいロマンに突き動かされて、発想し、行動する。堂々たる、愛すべき変態である。

もんじゃにおける「暗黙のルール」

それが今度は「もんじゃ焼き」だという。ポルトガルでもタイでもなく、もんじゃ焼きだという。

早速出かけて撃たれた。もんじゃ焼きをバカにしていた自分の度量のなさを、深く深く、反省した。

大体において、メニューから料理を想像できない。

「納豆ゴルゴンゴーラもんじゃ」「発酵鶏おかきもんじゃ」「ノルウェイもんじゃ」「夢の国タイランドもんじゃ」「ロシアもんじゃ」。

一体誰がもんじゃ焼きに、ロシアやタイ、ゴルゴンゴーラや発酵鶏を参加させようと考えつくだろう。

変態である。正しい変態である。

人気は、「夢の国タイランドもんじゃ」「ロシアもんじゃ」」だというが、ここは新作「ノルウェイのもんじゃ」をご紹介しよう。

入りますものは、サーモン、ディルやパクチー、イタリアンパセリにエストラゴン、ドライミントにドライオニオン。レモンにクリームチーズ、マスタードシードに紫キャベツと、もはやこの時点で、もんじゃとはかけ離れている。

しかし、小麦粉の生地に、干しエビ、切りイカ、天カスと、もんじゃの基本も入っている。

佐藤さん曰く「発想は自由にやってますが、干しエビ、切りイカ、天カスは必ず入れます。これらに合わない具は入れないという暗黙のルールがあります。」

もんじゃ、鉄板で踊る

さあ、佐藤さんが始動した。

おおっと。いきなり鉄板にゴマをかけ出した。その上にはなんとサーモンを乗せたではないか。

「こうするとパリッと焼けるのです」

次にボウルに入った生地と具を混ぜ、鉄板の上へ一気に流し入れたたかと思えば、具だけ手前に引き寄せる。

土手は作らないのかあ。ゆるい生地の流出を防ぐという、基本作業とは全く逆ではないか。

「こうしてまず、煎餅を作ります」

煎餅? ああっ!

向こうに流れしゆる生地が、焼けて焼けてパリパリの煎餅状になっていく。

それをクルクルと巻き上げて、皿に入れると、今度は手前にある本体の仕上げへ取り掛かった。

ふたつのコテをこまめに動かして、サーモンを切り、もんじゃの上に散らしたら、おおっと今度は、クリームチーズであります。

食べれば、確かにもんじゃ。偉大な粉が全ての味をまとめあげている。

が、しかし。もし「もんじゃ」という料理を知らず、ノルウェイはオスロでこれを出されたら、ノルウェイ料理だと思ってしまう説得力がある。

半生の鮭の具合が良く、混じり合ったハーブの香りが食欲を刺激し、チーズのコクが心を掴む。

まいったなあ。大変危険なもんじゃである。これは大至急、白ワインである。

しかし、白ワインが飲みたくなるもんじゃができようとは、夢にも思わなかった。

人気になったもんじゃはメニューから外す

そのほか、僕の無茶振りから生まれた「イベリコ豚かつ8時までもんじゃ」は、カリッと揚がった薄いカツとソース、和がらしとマスタードの出会いが舌を捉え、ご飯が恋しくなるもんじゃである。

イカ墨で炊いたご飯が入った「イカスミジューシーイカワタ石垣島もんじゃ」は、泡盛が欲しくなる。

まだまだ、永遠に、変わりもんじゃは生まれていくのだろう。でも佐藤さんは言う。

「人気になって、注文が多くなる種類は、定番になる前に一旦やめます。そうしないと、我々のモチベーションが下がりますから」

この辺りも、愛すべき変態ぶりである。

歴史上の革新とは、いつもこういう変態が起こして来たのである。

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