ライター紹介
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杉村啓
- 日本酒ライター、料理漫画研究家、醤油研究家。 日本酒の基本から歴史・造り方までを熱く語った『白熱日本酒教室』やタモリ倶楽部でも紹介された醤油の奥深さを書いた『醤油手帖』など、食に関する書籍を多数執筆。「むむ先生」として食のコラムや紹介を各メディアで担当。8月末には、グルメ漫画の半世紀を辿る新著『グルメ漫画50年史』を上梓。
Rettyグルメニュースをお読みの皆様、こんにちは。「むむ先生」こと、杉村です。3回目を迎えた「むむ先生の"食"超解説シリーズ」。
【1】【醤油】濃口・うす口の違いはどうして生まれたの?
【2】九州の醤油はなぜ甘い?南へ行けば行くほど甘くなる理由に納得!
今回のテーマは「名古屋の赤味噌、京都の白味噌、なぜ違いが生まれた?」です。
味噌にはどれぐらいの種類があるの?
地方によって味噌の味わいは違うというのは、知っている人も多いでしょう。ではいったいどのぐらいあるのでしょうか。これが結構ややこしいのです。
まずは原材料で分けてみると「米味噌」「麦味噌」「豆味噌」があります。
なんとなく味噌は大豆で造られていると思っている人も多いでしょう。それは間違いではありません。ただ、発酵させる「麹」が種類によって異なります。
まず米味噌は、米麹を使って大豆を発酵させて造るから「米味噌」となります。最も使われている味噌で、北は北海道から、南は四国まで広範囲に広がっています。具体的には、中京地方(愛知、三重、岐阜)と、九州地方、そして愛媛や山口以外のエリアが米味噌を使っています。
そして、米味噌以外と言ったエリアのうち、中京地方で使われているのが「豆味噌」です。こちらは、豆麹を使って発酵させているので、完全に大豆のみで造られている味噌となります。
また、九州地方および愛媛県や山口県で使われているのが、「麦味噌」です。こちらは麦麹を使って大豆を発酵させているのですね。
では米味噌の味わいはどうか、麦味噌の味わいはどうか、豆味噌はどうかというと、さらにややこしくなります。味噌は麹を多くすればするほど甘くなるからです。つまり、造るときに麹を多くすれば甘い味噌に、少なくすれば辛口の味噌になるのですね。
というわけで、米味噌の中にさらに甘味噌、甘口味噌、辛口味噌があり(甘味噌の方が甘口味噌よりさらに甘いです)。
麦味噌の中にもさらに甘口味噌、辛口味噌があります。
豆味噌は味の違いはありません。麹を使うというよりは、豆麹で大豆を発酵させるので、いわば全量が麹となるので、麹の量の差が出ないからです。
さらに、発酵の時間を調節することによって色合いが変わります。発酵時間が長ければ長いほど、色が濃くなっていきます。色が濃い順に赤味噌、淡色味噌、白味噌とあるのです。
というわけで、おおざっぱに分けるだけでも以下の種類があるのです。
米味噌(全国)
・甘味噌(白味噌、赤味噌)・甘口味噌(淡色味噌、赤味噌)・辛口味噌(淡色味噌、赤味噌)
麦味噌(九州、中国や四国の一部)
・甘口味噌・辛口味噌
豆味噌(中京地方)
名古屋の赤味噌、どうやって生まれたの?
名古屋の赤味噌、正確には中京地方の赤味噌の正体は「豆味噌」です。
豆麹を使って大豆を発酵させて造り上げる味噌なのです。
大豆は非常にたんぱく質が豊富な植物です。これを発酵させて分解すると、旨味のもとになる「アミノ酸」になります。
一方で、でんぷんはほとんど含まれていません。でんぷんは発酵で分解されると「糖」になるので、豆味噌は旨味たっぷり甘味少なめとなるのです。
また、発酵に時間がかかるため、色は濃くなるのですね。
では、一体なぜ名古屋では豆味噌が主流なのでしょうか。
諸説あるのですが、一番有力な説は、江戸時代までさかのぼります。徳川家康が1609年に名古屋城を築城することを決意。全国から大勢の人手が集められます。
人が増えれば、都市で消費される食べ物も増えます。そうして一気に増えた需要を満たすために、豆味噌ならびにたまり醤油の大増産を行うのです。たまり醤油は豆味噌と同じく、大豆のみで造られる醤油です。
とにかく大豆を使って味噌や醤油といった調味料を造ったのですね。ここで大量生産の礎ができ、全国的には他の味噌が使われるようになっても、豆味噌やたまり醤油が使われ続けたという説があるのです。
京都の白味噌、どうやって生まれたの?
近畿地方で使われている白味噌は、材料でいうと米味噌です。発酵期間を短くし、さらに塩も薄めにして、甘口の白い味噌に仕上げているのです。
白味噌はもともと、平安時代から平安京で造られていました。当時は貴重品だった米麹をたっぷりと使う甘い味噌は、甘いものが貴重だった時代に、平安貴族が食べる味として好まれていたのです。
さらに時代を経て、桃山時代になると茶道の隆盛と共に、懐石料理に欠かせない味として全国へ普及していきます。
ではどうしてそのまま定着しなかったのでしょうか。
それは、江戸の料理で一番求められていたのは生臭みを消すことだったからではないかと思われます。第1回の「【醤油】濃口・うす口の違いはどうして生まれたの?」で紹介した醤油の違いが生まれた背景と同じですね。
短い発酵期間で、繊細な風味を持った白味噌よりも、もう少し発酵させて、熟成させた赤味噌の方が様々な料理に適していたというわけです。したがって、江戸では江戸甘味噌という、白味噌よりも発酵期間を長くとって風味を強くした、赤味噌が使われるようになりました。
ただし、江戸甘味噌は塩分が少ないため、日持ちしません。そこで、基本的には贅沢品として使い(ただ、最盛期には需要の60%を占めていたとも言われます)、普段は塩分が多く、保存が利きやすい辛口味噌を使っていました。
少し話がそれましたが、白味噌はこうして、発祥の地である京都を中心とした近畿圏で使われ続ける味噌となったのです。
むむ先生のイチオシ調味料〜味噌編〜
今回のお話で赤味噌に興味を持ったら、味噌料理を味わってもらいたいところ。ここはやっぱり、名古屋名物「味噌カツ」の出番ではないでしょうか。
全国的に有名で、行きやすいといえば、やっぱり「矢場とん」です。名物のわらじかつ定食は、ぜひ赤味噌を甘めに仕立てたタレで味わってもらいたいところです。
- 矢場とん 矢場町本店
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愛知県 名古屋市中区 大須
とんかつ
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