ライター紹介
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杉村啓
- 日本酒ライター、料理漫画研究家、醤油研究家。 日本酒の基本から歴史・造り方までを熱く語った『白熱日本酒教室』やタモリ倶楽部でも紹介された醤油の奥深さを書いた『醤油手帖』など、食に関する書籍を多数執筆。「むむ先生」として食のコラムや紹介を各メディアで担当。8月末には、グルメ漫画の半世紀を辿る新著『グルメ漫画50年史』を上梓。
Rettyグルメニュースをお読みの皆様、こんにちは。「むむ先生」こと、杉村です。
「むむ先生の"食"超解説シリーズ」7回目のテーマは、地域差が実はかなり大きい「ポン酢っていろいろな種類があるの?」です。
味わったことがない人はいないだろうと思われるポン酢。実は、関東と関西では扱いが大きく異なるのをご存知でしょうか。
そもそもポン酢の「ポン」とは何なのか。今回はその辺りについて説明していきたいと思います。
ポン酢の「ポン」はどういう意味?
「ポン酢」は、柑橘系の果汁とお酢を混ぜたものです。そこにさらに醤油を加えると「ポン酢醤油」になります。
ポン酢と醤油との相性がとても良かったので、現在はポン酢醤油のことを「ポン酢」と呼んでいたりするのです。
そもそも「ポン酢」とはどういう意味?
なんとなく、デコポンやポンカンなど「ポン」がつく果物があることから、柑橘系の果物のことを指しているように感じますが、実はオランダ語の「ポンス(pons)」からきている説が有力なのです。
ポンスは柑橘系の果汁を表した言葉。
つまり、「ポン」と「酢」ではなく、「ポンス」だけで果汁だったのです。
少しややこしいのは、この「ポンス」も、外来語だったことでしょうか。同じ言葉が英語圏に入ると「パンチ(punch)」です。
これをさらに別な発音で表記するとポンチになります。そう、フルーツポンチのポンチなのです。
続いて「ポンチ」とはどういう意味なのか?
源流をたどるとインドのヒンディー語で「5」を表す「パンチ」からきているという説があります。このインドの「パンチ」は、蒸留酒、砂糖、レモン果汁、水、香辛料もしくは紅茶の五種類の材料を使ったカクテルの名前になりました。
というわけで、レモンなどの果汁を加えたアルコール飲料である「パンチ」が英語圏に渡り、果物をたくさん入れる「フルーツポンチ」となり、さらにオランダへ渡ると柑橘系の果汁を表す「ポンス」へとなったわけです。
日本にポンスはどのタイミングで入ったのか。それは、江戸時代だと言われています。鎖国をしていた日本は、最新の情報をオランダから得ていたので、このときに入ってきたオランダ語由来の言葉は結構あるのです。ポンスもそのうちのひとつだったのですね。
最初はお酒のカクテルのことを「ポンス」と呼んでいたようなのですが、だんだん柑橘系の果汁のことを「ポンス」と呼ぶようになっていきました。
おそらくは、ポンス(カクテル)を作るのに必要な果汁のことを、面倒だからポンスと呼ぶようになっていったのでしょう。
生のままの果汁は日持ちしません。そこで、お酢を入れて保存性を高めるようになりました。
そこへ、ポンスの「ス」に「酢」を当てはめると都合がいいということで「ポン酢」という言葉が誕生するのです。
今ではお酢を加えていない柑橘系の果汁のことを「生ポン酢」と呼ぶ、逆転現象まで起きているのはちょっと面白いですね。
いずれにしても、ポン酢は実は「ポン」と「酢」ではなく「ポン酢」という言葉だったのです。
ポン酢の世界は西高東低
スーパーでポン酢コーナーを眺めてみましょう。皆さまのお住まいの地域では、どのくらいの種類が並んでいますでしょうか?
実はここに地域性が最も出ています。関東だと、平均6種類ぐらいと言われています。ただ、この調査は少し昔のものなので、現在では10種類を越えるところは少なくありませんが、だいたいそれぐらいではないでしょうか。
ところが関西は大阪になりますと、平均28種類も並んでいるのです。自分の足で調べたときには、最大で50種類以上のポン酢が並んでいるお店もありました。
大阪のとある番組で街頭アンケートをとってみたところ、関東では1種類しか家にないという人が多いのに対し、大阪では複数種類のポン酢が家にある人が圧倒的に多く、その理由としても「牛肉、豚肉、鶏肉それぞれ『肉』と言っても味が違う。なら、それにかけるポン酢が違うのも当たり前では… 」とのこと。
もともと大阪は、てっちりなどの鍋文化が根付いていたということと、調味料にこだわる文化であることがあります。お好み焼きやたこ焼きのソースを使い分けるのも有名ですよね。それと同じく、ポン酢も使い分けている家庭が多いのです。
関東の方は、大手のポン酢が美味しすぎるというのもあります。愛知県のミツカンの味ポンはもとより、キッコーマンやヤマサといった大手醤油メーカーのポン酢も強いです。どれもこれも美味しく、これ一本あればいいと思うことも少なくありません。
おそらくは、先にそういった大手のポン酢が普及したために、満足してしまい、他のものを試そうとならなかったのではないでしょうか。
というわけで、ポン酢の世界は、少なくとも種類においては西高東低といえます。また、西の方ほど、醤油を加えていない「ポン酢醤油」ではない「ポン酢」を使っている割合も高いようです。
最近は技術の発達により、さまざまなポン酢が出てきています。定番の柚子やすだちだけではなく、橙(だいだい)やみかん、かぼす、デコポン、じゃばらといった果物を使ったものもあります。
鯛だしや、とり野菜味噌、玉ねぎ、牡蠣醤油を加えたものもありますし、お酢に注目をして柿酢を加えたものとかもあります。さらには、ちょいかけボトルのように、卓上に置いて適量が出せる、より使いやすく工夫を凝らした商品まで出てきました。
それぞれの地域で好まれる味わいや、特産品が異なるため、地域性がかなり出るのがポン酢という調味料です。旅行に行ったときには、スーパーに立ち寄ってポン酢コーナーを見てみるのも楽しいですよ。
【むむ先生のイチオシ調味料〜ポン酢編〜】
ポン酢に興味を持った人に是非行ってもらいたいお店があります。京都は西陣にある、林孝太郎造酢です。
ここはなんと、自分でポン酢を調合できます!(要予約)
用意してもらったダシ醤油をベースに、すだち、だいだい、柚子の三種の果汁を選び、好きな量だけ加えてオリジナルポン酢を造ることができるのです。このダシ醤油の作成に、熟れさせる時間が3日ほど必要なため、3日前から要予約となっています。
少しずつ果汁の割合を変えて、その都度味見をしながら造れるので、きっと好みの味わいができることでしょう。ラベルもその場で描いたり、データを送って印刷してもらうことができます。
こちらの写真は漫画家さん達と一緒にポン酢を造りに行ったときのものです。右側から鈴木小波先生(ホクサイと飯さえあれば)、浅野りん先生(であいもん)、佐藤両々先生(わさんぼん)、そして私(グルメ漫画50年史)のラベルです。
ポン酢好きな人はもちろん、少し興味があるという人も是非行ってみてください!!
- 京 西陣 孝太郎の酢
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京都府 京都市上京区
お土産
※編集部より:こちらの記事は、同人誌「醤油手帖 幸せのポン酢醤油編」(2014年)を著者が作成した際、ポン酢メーカー各社に取材に行って聞いた話を元にして構成、執筆されています(2017年10月16日追記)
■グルメ漫画の歴史をまとめた本『グルメ漫画50年史』を出しました
50年にわたるグルメ漫画の歴史を、10年ごとに区切り、当時の食文化からどういう影響を受けてきたのか、そして食文化にどういう影響を与えてきたのかを記しました。
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