Rettyグルメニュースをお読みの皆様、こんにちは。「むむ先生」こと、杉村です。
ライター紹介
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杉村啓
- 日本酒ライター、料理漫画研究家、醤油研究家。 日本酒の基本から歴史・造り方までを熱く語った『白熱日本酒教室』やタモリ倶楽部でも紹介された醤油の奥深さを書いた『醤油手帖』など、食に関する書籍を多数執筆。「むむ先生」として食のコラムや紹介を各メディアで担当。8月末には、グルメ漫画の半世紀を辿る新著『グルメ漫画50年史』を上梓。
「むむ先生の"食"超解説シリーズ」も、もう11回目!皆様ありがとうございます!今回のテーマは、「カレーの隠し味、インスタントコーヒーやココアはなぜ深みを出してくれるのか?」です。
カレーを作る時、一見カレーとは関係なさそうなものでも、ちょっとだけ入れると味に深みが出るものがあるということは聞いたり、試してみたりしたことがあると思います。
いわゆる「隠し味」ですね。
その中でも特に有名なのが、インスタントコーヒーやココアなどを加えることです。代わったところでは、漢方の風邪薬を入れる(!)というのもあるそうです。どういう仕組みで味が深まるのか、考えていきましょう。
そもそも隠し味とは
まずは、「隠し味」とはそもそも一体何なのか調べてみます。手元の辞書によると、隠し味とは以下のように説明されていました。
「調理のとき、塩、砂糖、みりんなどを、はいっているのがわからない程度に加えて効果を引き出す調味の方法をいう。甘い餡に塩、味噌汁にしょうゆを落とすなど」(小学館 精選版 日本国語大辞典)
ここでポイントになるのは「効果」です。
たとえば塩には、甘味を引き出す効果があります。スイカに塩をかけて食べるのが代表的でしょうか。こういった、違う味わいのものを少しだけ加えることによって、メインの味わいが強くなることを「対比効果」と言います。
他にも「抑制効果」があります。これは、二種類以上の味を混ぜたときに、どちらか一方、もしくは両方の味が弱められることを言います。
たとえば醤油を見てみましょう。
醤油(濃口醤油)は塩分濃度が16%ほどあります。これだけだとピンとこないかもしれませんが、海の水の塩分濃度が3%から5%ぐらいと考えると、かなり塩辛いのがわかるのではないでしょうか。
でも、なめてみるととても海の水の何倍も塩辛いようには感じません。これは醤油の持つ旨味が、塩味を抑制しているからなのです。
もっとわかりやすい例だと、苦いコーヒーに砂糖を入れると苦みが和らぎます。これも「抑制効果」なのですね。旨味は塩味を抑制し、甘味は苦味を抑制するのです。
そして、もうひとつ。「相乗効果」があります。これはちょっとややこしいのですが、同じような味わいを二つ以上混ぜることで、互いに味を強める効果なのです。
たとえば旨味。実は旨味には種類がいくつかあります。昆布などに入っている「グルタミン酸」。カツオ節などに入っている「イノシン酸」。椎茸などに入っている「グアニル酸」。大きく分けて、この三つを覚えておくといいでしょう。
これらの旨味は単独で味わってももちろんおいしいのですが、異なる種類を合わせることで、旨味が何倍にもふくらみます。グルタミン酸とイノシン酸、グルタミン酸とグアニル酸を組み合わせると、1+1が2ではなく、5にも10にもなるのです。これが「相乗効果」です。
昆布ダシ(グルタミン酸)とカツオ節ダシ(イノシン酸)の合わせダシが美味しいのは、まさにこの相乗効果を利用しているのです。他にも醤油(グルタミン酸)と牛肉(イノシン酸)の相性が抜群なのも、お互いに味を高め合っているからなのですね。
隠し味とは、少量の調味料などを加えることで、こういった「対比効果」や「抑制効果」、「相乗効果」を生み出すことを言うのです。
「味の深み」とは?
もうひとつ、隠し味を語る上で欠かせないのが「味の深み」です。隠し味を加えることで、味に深みが生まれる。というのはよく言われていることです。
この「味の深み」とは、最も簡単に表現すると「味が複雑」という意味です。どれだけおいしくても、シンプルな味わいのものに対して「味に深みがある」とは言いません。
味には大きく分けると甘味、酸味、塩味、苦味、旨味の五種類があります。これらが全て入っていて、バランス良く味わえる状態こそが「味に深みがある」という状態なのです。甘味だけのものや、塩味だけのものに対して「味に深みがある」とは言わないのですね。
複数の味わいがするということは、おいしさにも大きく影響します。どうしても、単一の味しかしないと、食べ飽きてしまうからです。味にグラデーションがある方がおいしいし、長く食べ続けられるのですね。
カレーにインスタントコーヒーやココアはなぜ合うのか
カレーの作り方にはさまざまなものがありますが、一般には苦味が強い材料はあまり使われていません。そこにインスタントコーヒーやココアといった、上質な苦味を持ったものを少量加えることで、少なかった苦味が加わり、複数の味わいが存在するようになることで、味に深みが出るのです。香りが加わるのも大きいです。
カレーにリンゴやハチミツといった甘味を加えるのも、同じ理由ですね。ココアは甘味も出ますし、味に深みを出すのにぴったりの隠し味と言えるでしょう。
ちなみにオススメの隠し味としては、オイスターソースがあります。旨味や甘味や強いコクを持ちながら、それほど前に出てこないので、ちょっと加えると味に深みが出ます。お試しください。
■グルメ漫画の歴史をまとめた本『グルメ漫画50年史』を出しました
50年にわたるグルメ漫画の歴史を、10年ごとに区切り、当時の食文化からどういう影響を受けてきたのか、そして食文化にどういう影響を与えてきたのかを記しました。
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