Rettyグルメニュースをお読みの皆様、こんにちは。「むむ先生」こと、杉村です。
ライター紹介
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杉村啓
- 日本酒ライター、料理漫画研究家、醤油研究家。 日本酒の基本から歴史・造り方までを熱く語った『白熱日本酒教室』やタモリ倶楽部でも紹介された醤油の奥深さを書いた『醤油手帖』など、食に関する書籍を多数執筆。「むむ先生」として食のコラムや紹介を各メディアで担当。8月末には、グルメ漫画の半世紀を辿る新著『グルメ漫画50年史』を上梓。
「むむ先生の"食"超解説シリーズ」の12回目は、「柚子胡椒はいつから市民権を得た?」です。これまた難しいお題をいただいてしまいました。
現在ではすっかりおなじみになっている調味料「柚子胡椒」。
お鍋の季節には欠かせないという人も多いのではないでしょうか。でも確かに、気がついたらいろいろなお店で食べられるようになっていたし、食卓にも上がるようになっていて、いつの間に市民権を得たのだろうと考えてもおかしくありません。
柚子胡椒とはいったい何なのか、その歴史と共に掘り下げていきましょう。
柚子胡椒の「胡椒」は塩胡椒の「胡椒」ではない
まず最初に、意外と誤解している人もいるのですが、柚子胡椒の「胡椒」とは何なのかという話です。
文字からすると「塩胡椒」などの胡椒のようにも思えますが、これは「唐辛子」のことなのです。
つまり、柚子胡椒は「柚子」+「胡椒」の調味料ではなく、「柚子」+「唐辛子」の調味料なのですね。ちなみに読み方は「ゆずこしょう」ではなく「ゆずごしょう」が正しいようです。(後述)
大ざっぱな作り方の一例としては、柚子の皮と、種を抜いた青唐辛子をすりつぶし、塩などで味を調えるというもの。果汁などを加えることはあっても、胡椒を加えるのではないのです。
何故「唐辛子」を「胡椒」と言うのか
では何故、唐辛子が「胡椒」と呼ばれるようになったのでしょうか。
塩胡椒の方の「胡椒」は、かなり古くから日本に伝わっております。少なくとも奈良時代に中国から伝っていたようで、正倉院文書にも「胡椒」の字が見られます。当時は医薬品として用いられていて、あまり一般には知られていなかったようです。
その後も断続的に輸入され、少しずつ調味料としても使われるようになっていきました。
一方の唐辛子。諸説あるので、代表的な説を紹介しましょう。
「唐」の字があるから中国の唐の時代に伝わってきたのかと思いきや、1500年代にポルトガル人の宣教師によって伝えられたようです。
「唐」は「南蛮渡来」という意味で用いられていたのでした。外国からきた辛子という意味ですね。当初は胡椒の亜種と思われていたので、「南蛮胡椒」とも呼ばれていたのです。
ちょっとややこしいのが、豊臣秀吉の時代です。いわゆる第一次朝鮮出兵(文禄の役:1592年)の際に、唐辛子を日本から朝鮮へ持っていきました。最初は調味料としてではなく、燃やして煙で目つぶしをしたりと、兵器として持っていったという説もあります。そうして、朝鮮で唐辛子が広まりました。
そして第二次出兵(慶長の役:1597年)の際に、朝鮮では調味料として広まっていたので、兵士達が持ち帰り、それが日本に広まったのです。
というわけで、朝鮮(高麗)から持ってきたという意味で「高麗胡椒」とも呼ばれるようになりました。沖縄の唐辛子やそれを利用した調味料「コーレーグース」はまさにこの「高麗胡椒」のことなのです。
その後、東日本では「南蛮胡椒」の「胡椒」を取って、「南蛮」と呼ばれるようになりました。南蛮味噌といえば唐辛子味噌のことですし、仙台で牛タンと一緒に食べられる南蛮といえば、青唐辛子の味噌漬けのことです。
一方、九州などでは「高麗胡椒」の「高麗」をとって「胡椒」と呼ばれるようになったのです。
また、唐辛子は「唐(中国)を枯らす」とも読めたために、中国と交易のあった九州では、縁起の悪い言葉とされ、「胡椒」と呼んだ説もあります。九州地方で生まれた「柚子胡椒」の「胡椒」が「唐辛子」であるのは、こういう歴史があるのでした。
「ゆずこしょう」「ゆずごしょう」どちらが正しいの?
もうひとつ、誤解している人が多い問題があります。それは「柚子胡椒」の読み方。
試しにGoogleで検索をしてみましょう。
"ゆずこしょう":約 386,000 件
"ゆずごしょう":約 129,000 件
(2017年12月現在の結果)
「ゆずこしょう」と呼んでいる人の方が多いことがわかります。
でも実は、柚子胡椒発祥の地である九州では「ゆずごしょう」と呼ぶ方が圧倒的に多いようです。
全国に広まっていく過程で「柚子胡椒」をそのまま読んでしまった「ゆずこしょう」という名称が定着してしまったのでしょう。後述するお菓子も「柚子こしょう味」として展開されました。
発祥の地での呼び方に従うと「ゆずごしょう」が正しいと言えます。
ポイントは2008年?!
柚子胡椒がいつ誕生し、どこが元祖なのかは、これまた諸説あります。
九州の各地で造られたという説や、福岡県が発祥という説、そして大分県日田市で生まれたという説などがあるのです。
有力なのは、大分県日田市で生まれた説でしょうか。古くから柚子を栽培していた地域のため、柚子を利用した柚子胡椒もここから生まれたというわけですね。
柚子胡椒が全国的に広まったのは、2000年代に入ってから。
それまでにも知る人ぞ知る調味料として紹介されていたものが、2005年頃からテレビや雑誌、新聞で紹介され、じわじわと広まっていきました。
ただ、塩麹のように一気にスターダムにのし上がったというわけではないので、明確な「これ!」というものは、調べてもわかりませんでした。もし「この番組がきっかけ」、「この雑誌に載ったからブームに」という情報をお持ちの方がいたら教えていただきたいと思います。
個人的に、これは市民権を得たのだなと思ったのが、2008年。この年に、さまざまな「柚子胡椒味」のお菓子が登場したのです。
堅あげポテトゆずこしょう味(2008年2月)、かっぱえびせん柚子こしょう(2008年9月)などが期間限定で次々と発売されました。
今日のオススメは、期間限定「堅あげポテト 柚子こしょう味」季節のフレーバーとして、今年も柚子こしょう味が登場しました!青柚子と青唐辛子を使った“ゆずこしょうフレーク”が本格的な味わいです☆(コンビニ以外のお店は10/3発売です) pic.twitter.com/F64paLQsD7
— Calbee(カルビー)公式 (@Calbee_JP) 2016年9月26日
居酒屋などでも広まっていたものが、お酒が飲めない子供なども食べられる、全国で販売されるお菓子に「柚子胡椒味」として登場したこの年こそが「市民権を得た」と思うのです。
その後もプリッツゆずこしょう味や、カールスティック柚子胡椒味、亀田柿の種柚子こしょう味などさまざまな柚子胡椒味のお菓子が登場しています。
中には、ご当地お土産お菓子ブームもあってか、キットカット柚子こしょう味が九州限定で登場しています。
鍋だけではなく、今やサラダドレッシングに加えたり、焼き鳥に使ったり、ラーメンに添えたり、オリーブオイルと和えてパンに塗ったりと、万能に活躍する柚子胡椒。
せっかく買ったけれども、少し余ってしまったなと思っている方は、さまざまな用途に使ってみると、新たな味わいを体験できるかもしれません。
【むむ先生のイチオシ調味料〜柚子胡椒編〜】
柚子胡椒を薬味として使うとき、意外と難しいのは量の加減です。味噌状なので、思ったよりも多くつけ過ぎてしまったりして、うわっ、辛い! となった経験を持つ人もいるのではないでしょうか。
そういう人におすすめしたいのが「Yuzusco」です。
これは柚子胡椒のタバスコ版ともいうべきもので、ようするに液体の柚子胡椒なのです。液体なので、料理の隠し味に使いやすいのがうれしいところ。
柚子胡椒の代わりに使ってもいいし、タバスコの代わりにピザやパスタなどにかけてもおいしいYuzusco。持ち歩きやすいのもいいですね。
■グルメ漫画の歴史をまとめた本『グルメ漫画50年史』を出しました
50年にわたるグルメ漫画の歴史を、10年ごとに区切り、当時の食文化からどういう影響を受けてきたのか、そして食文化にどういう影響を与えてきたのかを記しました。
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