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連載:マッキー牧元の"変態メシ"

【変態メシ】いま一番炊かれたい男。米炊き名人がいる代々木上原「おこん」で多幸感に包まれる

ライター紹介

マッキー牧元
マッキー牧元
株式会社味の手帖編集顧問。タベアルキスト。「料理王国」他14媒体で連載中。フレンチから居酒屋まで全国、世界中で年間600食を食べ歩く。2017年7月にRetty・TOP USER PRO就任。

ご飯と変態は縁が無い。

ついでに言うなら、米と変態も縁が無い。

ご飯は、シンプルなほど良く、日本人が毎日食べて来たものだから、変態を突き詰めようにも、難しいのである。

しかし。この店では一番最初に炊き立てのご飯が出る。

「ウエルカムライス」である。

前菜がご飯なのある。

常識を打ち破る男は、代々木上原「おこん」店主の小柳津大介氏という。

初めてこの店の存在を知ったのは、8年前であった。

また立地が、わかりづらい場所にある。駅から歩くこと10分、店など一つもない住宅街にてひっそりと佇む。この立地だけで、変態の気配が匂う。

予約の電話をしたら、「今日は、どんな御気分ですか」と聞かれた。なにかと思えば、お客様の気分で炊き込み御飯のタネを決めるのだという。

おもしろい。早速電話口で盛り上がって、仕事が忙しいことを伝えると、魚介類をとり合わせた炊き込みご飯がだされ、仕事がうまく行ったと伝えた日には、ローストビーフの炊き込み御飯がだされた。

しかも、それぞれに使っている米が違う。

肉も魚も野菜もキノコも、活かす米が違うといい、さまざまな個性を持つ米で炊き込み御飯を作られていた。

その後、さらに米研究は深まり、『いつものお米を10倍おいしく炊く方法』という本も出され、最近ではテレビ出演も多い。

本人いわく、「炊かれたい男No.1」を目指しているいう(笑)。

その後コース内容が変わり、現在では「ウエルカムライス」から始まるようになった。

炊きたてのご飯は2種類用意され、写真の手前が、南魚沼市塩沢町の米作り名人・関智晴さんが作ったコシヒカリを、静岡県沼津「米のはせがわ」の長谷川明生さんが、手作業で一粒ずつ選米したものを土鍋で炊いたご飯である。

奥が、山形県南陽市の青木功樹さんが作ったミルキー・クィーンを、錦糸町の米屋「亀太商店」が精米し、文化鍋で炊いたご飯である。

文化鍋で炊いた理由は、米が締まって、シャープな味になるため、柔らかい甘味を持つこの米を活かすからだという。

ううむ。この時点で、かなりのハイブロウではないか。

「では味の濃い釜の中心ではなく、端から食べてもらいましょう」とよそった2種類のご飯は輝いている。 

コシヒカリは、箸で持ち上げた時は一致団結しているのだが、口の中にいれると、はらりと舞う。米一粒一粒が独立しながら、「私っておいしい?」とささやいてくる。

これが選米の効果か。米の仕事の格が違うということか。そして甘みに品があって、いつまでも口に残る。余韻が長い。

食べた後もしばらく米のおいしさに酔い、うっとりとなってしまうコメである。

一方のミルキークイーンは、歯を押し返すようなもっちりとした弾力があって、香りが甘い。噛めば米の甘みがじっとりと押し寄せてくる。

歯の間でくんずほぐれず情がもつれあう、元気な米である。愛情をかけて育てられた生物に共通する、勢いがある。

続いて釜の真ん中を食べると、味が濃い。噛みしめがいがあるご飯である。ここで小柳津さんのすすめに従って、燗酒と合わせてみた。

ああ、なんたることだろう。お酒と出逢って、さらに甘みが膨らみ色気が出、あとからあとから湧き出るようにうま味が滲み出てくるではないか。

もう後先考えず炊きたての米を一心に食べる。食べながら、お腹が空いていく米なのでもある。結局は、二人で4合の米を食べてしまった。

しかし食後は軽い。

その後いただいたすばらしい刺身も、ふんわりと崩れゆくほの甘い太刀魚の塩焼きも、難なくいただいて、さあ、いよいよ締めのご飯である。

これも先の「米のはせがわ」長谷川さんが特別にブレンドし、選米した、「ハツシモ、ひゃくまん穀、にこまる、いちばん星のブレンド、2.3mm仕上げ」である。

 
釜の蓋を開けると、甘い湯気とともに、光り輝くご飯があらわれた。一粒一粒が際立ってファイティングポーズをとっている。米の一粒一粒ががこちらに向かって、「早く食べて」と誘っている。

たまらず口にすれば、ぱらりとほどけて、甘い香りが抜けていった。最初から甘みが広がらない。噛むほどに甘みが増していく、いつまでも噛んでいたいご飯である。

さらに海苔を巻けば、海苔の甘味と一体化し。塩をかければ甘みが際立って箸が止まらなくなる。

歯が一粒一粒の米を感じている。それが食べる喜びにつながっていく。

最後はお湯をかけて、湯漬けにしてみた。

ああ。典雅な甘味が広がっているふくよかな気持ちを呼ぶ。多幸感が身体に満ちて、食べ終わったあとはなにかいいことを成し遂げた充足感がある。

コメの変態がここに居る。コメの幸せを届けてくれる変態がここに居る。

この店でご飯を食べることは、すなわち、日本人としての真の幸せを得ることであり、日本という国の尊さを会得することなのだ。

 

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