Rettyグルメニュースをお読みの皆様、こんにちは。「むむ先生」こと、杉村です。
ライター紹介
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杉村啓
- 日本酒ライター、料理漫画研究家、醤油研究家。 日本酒の基本から歴史・造り方までを熱く語った『白熱日本酒教室』やタモリ倶楽部でも紹介された醤油の奥深さを書いた『醤油手帖』など、食に関する書籍を多数執筆。「むむ先生」として食のコラムや紹介を各メディアで担当。8月末には、グルメ漫画の半世紀を辿る新著『グルメ漫画50年史』を上梓。
「むむ先生の"食"超解説シリーズ」の13回目は、「おでんの薬味、定番の辛子以外に何がある?」です。
冬になると、食べたくなる物の筆頭ともいえる「おでん」。コンビニエンスストアでも、人気の商品ですね。
最近はコンビニエンスストアでおでんを買うと、辛子以外の薬味をもらえることがあります。はたして、薬味はどのぐらいの種類があるのでしょうか。
おでんは複雑な発展の仕方をしている
まずはおでんの歴史を簡単に紐解いてみましょう。
「おでん」という言葉がありますが、もともとは「田楽」からきています。
室町時代の初期頃に、御所に使える女房達が使い始めた、一種の隠語である女房言葉で、「田楽」を「おでん」と呼ぶようになったのが始まりです。
最初は、いわゆる味噌田楽、豆腐田楽で、豆腐を串に刺し、味噌を塗って焼いたものでした。
江戸時代になると、江戸で豆腐料理が流行するようになり、豆腐田楽は広まります。一方の大阪(当時は大坂)では、こんにゃくを串に刺してみそをつけて食べる"こんにゃく田楽"が広まりました。
今の形のおでんが登場した時期には、二つの説があります。
ひとつは江戸時代。
江戸近郊で濃口醤油が発明され、その醤油にかつおの削り節、昆布でダシをとり、みりんを加えた甘辛い汁で煮込んだ「煮込み田楽」が作られるようになったというものです。
この頃から「田楽」は「焼き田楽」を、「おでん」は「煮込み田楽」を指すようになります。
もうひとつの説では、江戸時代には煮込みおでんは存在しなかったというもの。
串に刺したこんにゃくや里芋を湯でて煮て、みそだれを塗ったものを「焼きおでん」に対し、「煮込みおでん」と呼んでいたというものです。
そして、この煮込みおでんは、東京で1887年(明治20年)に創業されたおでん専門店「呑喜」が、汁気たっぷりに煮込んだものを売り出したことで進化します。
今のようにたっぷりのダシに浸るようなおでんは、このときに作られたのです。
その後、大正時代に、この「おでん」が関西に伝わります。
大阪では、みそだれのおでんと区別するために「関東炊き(かんとだき。関東煮(かんとに)とも。)」と呼ばれるようになります。
大阪で関東炊きは、さらに大阪の人達が好むような形の具材や、淡口醤油などが加わり、進化していきました。
さらなる転機が起きたのが、大正時代は1923年に起きた関東大震災です。
大きな被害があった関東には、全国から救援の手が差し伸べられました。その中で、関西の料理人がふるまった炊き出しメニューの中に、関東炊きがあったのです。
関西でさらに進化したおでんを、関東の料理人達も味わい、こういうやり方もいいんだと、さらにいろいろなものを加えるようになっていきました。
その後、おでんは全国に広がっていきます。
こういった経緯があったせいか、それぞれの土地でそれぞれの味覚にあったダシや、おでん種を使われる、"ご当地おでん"が登場することになりました。
各地のおでんで、薬味が異なる
おでんの薬味は、辛子が定番ではありますが、地方によって違うものがついてきます。代表的なものを見ていきましょう。
北海道・東北地方
北海道や東北のおでんは、薬味として甘辛い生姜味噌をつけます。具材は、山菜や海の幸が豊富なのが特徴です。
関東地方
一度関西へ伝えたおでんが、関西から逆輸入する形になり、さらに進化させたのが関東のおでんです。薬味は和辛子がほとんどです。独自の食材として、"ちくわぶ"があげられます。
中部地方
「静岡おでん」で有名な静岡県では、薬味として「ダシ粉」と呼ばれる鰯の削り節や、かつお節、青海苔をかけます。鶏ガラや牛すじでとったダシに濃口醤油を合わせているため、見た目が真っ黒なおでんです。
また愛知県の周辺では、「味噌おでん」があります。薬味には甘味噌を使い、八丁味噌をベースにした甘めの汁で煮込んでいます。
長野県飯田市の名物「飯田おでん」では、醤油ベースのネギだれをかけて食べます。
北陸地方
石川県は、人口100万人あたりのおでん屋の数が全国一位という、おでん大国でもあります。「金沢おでん」は、薬味として生姜味噌が使われることがあります。塩ベースのダシのおでんで、香箱ガニを使った「かに面」などの独自のおでん種も豊富です。
富山県では和辛子の他に、白とろろ昆布を載せて食べます。
近畿地方
近畿地方の中でも、兵庫県姫路市の「姫路おでん」は、生姜醤油で食べられています。
近畿地方の出汁の特徴は、かつおだけでなく、昆布の出汁も利かせたおでんが食べられています。
中国・四国地方
香川県では、白味噌ベースの甘い味噌だれが用いられます。
また、愛媛県の南部、南予地方では「みがらし」という和辛子に、甘い麦味噌や酢などを加えたものを薬味として使います。
九州地方
九州のおでんは、薬味として和辛子の他に、柚子胡椒も人気があります。
具材の特徴としては、「餃子巻き」が入っているものが多いです。また、飛び魚で取った、あごだしを使うところもあります。
沖縄地方
沖縄のおでんは、和辛子だけではなく、マスタードを薬味として用いることがあります。
理由は、具材としてテビチ(豚足)やソーキ(豚のあばら肉)の、豚が多いためと考えられます。
このように、地方によっておでんはさまざまな顔を見せますし、薬味も異なります。旅行をした時には、その土地のおでんを食べてみると、その土地の食文化が垣間見えるかもしれませんね。
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最近お気に入りのマスタードが、大分県は湯布院にある山荘無量塔(むらた)の粒マスタードです。
マスタードの実をつぶさずに使い、プチプチとした食感もおいしく、また酸味も利いていて、上品な辛さを持っています。ソーセージとの相性は特に抜群なので、この冬はおでんにソーセージを入れ、このマスタードを薬味に使ってみるのはいかがでしょうか。
通販で購入できる他、デパートなどでも販売されているところがあります。是非、探してみてください。
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50年にわたるグルメ漫画の歴史を、10年ごとに区切り、当時の食文化からどういう影響を受けてきたのか、そして食文化にどういう影響を与えてきたのかを記しました。
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