Rettyグルメニュースをお読みの皆様、こんにちは。「むむ先生」こと、杉村です。
ライター紹介
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杉村啓
- 日本酒ライター、料理漫画研究家、醤油研究家。 日本酒の基本から歴史・造り方までを熱く語った『白熱日本酒教室』やタモリ倶楽部でも紹介された醤油の奥深さを書いた『醤油手帖』など、食に関する書籍を多数執筆。「むむ先生」として食のコラムや紹介を各メディアで担当。8月末には、グルメ漫画の半世紀を辿る新著『グルメ漫画50年史』を上梓。
「むむ先生の"食"超解説シリーズ」の14回目は「じわじわ人気!?万能調味料『煎り酒』ってなあに?」です。
調味料に興味のある人は知っているけれども、そうでない人は意外に知らないのが煎り酒。
"お酒"と名前がついているのですが、飲み物ではありません。料理に使ったり、お刺身などをつけたりして使うのですね。飲めないことはないのですが、まあ、飲まない方がいいでしょう。
煎り酒の作り方、公開
まず、煎り酒がどんなものなのかを知るために、代表的な作り方を紹介しましょう。煎り酒の材料は日本酒、梅干し、かつお節の3つです。
1:日本酒と梅干し(日本酒2合につき大きめの梅干し2個ぐらい)を鍋に入れ、煮立てます
2:そこにかつお節(15g)を入れ、弱火で煮つめていきます
3:水分量が半分ぐらいになったら、漉してできあがり。煮沸した瓶に保存すれば、冷蔵庫で2週間近く保ちます
このように、煎り酒とは日本酒をベースに、かつおダシの旨味と梅干しの酸味や塩気を持ったものです。
加熱して煮つめていくので「煎り」酒なのですね。
作るときのコツは、梅干しは紫蘇と塩だけで漬けたものを選ぶということでしょう。塩気は基本的に梅干し頼りなので、甘めの梅干しを使うと味がしまりません。しっかりと酸っぱい梅干しを使うようにしてください。
日本酒は、純米酒タイプの方がいいでしょう。
いわゆる醸造アルコールが入っているタイプのお酒は、後味がスッキリしていて飲みやすかったり香りがうまく引き出されていたりする特長を持っています。
これは飲むのにとてもいいのですが、煎り酒では飲むのが目的ではなく、調味料として使うのが目的なので、できるだけ味わいが濃い方が美味しくなります。
そこで、純米酒を用いるのです。また、料理酒も避けた方がいいです。(不可飲処置といって塩を加えたりして飲めないようにしているものも多いので)
できあがった煎り酒は、日本酒のコクと、濃いかつお節の旨味、梅干しの酸味や旨味、そしてほどよい塩気(塩気が足りないなと思ったら塩を加えて味を調整してもいいです)を持った調味料です。
基本的には醤油と同じような感覚で使うことができます。
お刺身につけてもいいし、サラダや焼き魚にかけても美味しい。卵かけご飯にかけても、かつお節の旨味が味を引き立ててくれます。全体的には、淡白な白身や鶏ささみなどにとても良く合います。
まさに万能調味料と言うのにふさわしい調味料なのです。
煎り酒はいったん廃れた?
ところがこの煎り酒、近年になるまではあまり注目をされていませんでした。
歴史は長いのです。室町時代の書物に記載があったりとか、江戸時代の料理書に作り方が載っているため、かなり古いのですね。
室町時代後期に生み出され、江戸時代に広まり、食卓に欠かせない存在となったのですが、同じ江戸時代には廃れていきます。というのも、まず第一に保存が利かなかったからです。
作り方を見てもらえばわかりますが、塩分は基本的に梅干しからとったダシ次第です。そのため、塩分濃度はそれほど濃くありません。
その優しい味わいが特長でもあるのですが、そうなると、雑菌を退治することができずに保存が効かないのです。
江戸時代には冷蔵庫もありませんし、作り置きができなかったのですね。
第二には、醤油の存在があります。
江戸時代に発明された「濃口醤油」は、特に江戸の味覚に合わせて味が濃く、香りも強く進化していきました。塩分も高く、保存が利くため、どんどん普及していったのです。
特に江戸の人達が大好きな魚の生臭さを消す効果などは、煎り酒よりも醤油の方が強いため、だんだん醤油の方がいいんじゃないかとなっていったのですね。
こうしていったん煎り酒は、ほとんど使われなくなっていくのです。
また最近人気が出始めている煎り酒
ところが近年、煎り酒の人気がじわじわとあがってきているのです。さまざまな要因がありますが、ひとつは醤油ほど個性の強くない調味料ということが挙げられるでしょう。
また、塩分濃度が高くないため、減塩の風潮にとても合っているということもあります。
そして何より、さまざまなメーカーが煎り酒を作って販売しているというのが大きいでしょう。銀座三河屋や茅乃舎などの煎り酒を購入すれば、すぐに使うことができるのです。
最近では、ダシの部分に昆布も使ったりと、さまざまな煎り酒レシピが出ています。
唯一の欠点は、ちょっと高いということでしょうか。日本酒で作る場合でも、日本酒を買ってきて、塩だけの梅干しやかつお節を用意して……となると、結構な金額がかかります。市販の煎り酒も、醤油に比べてしまうとどうしても割高になるのですね。
ただ、淡白な白身の魚の味を損なわない深いコクと味わいがある煎り酒は、醤油ともまた違った風味があるのも事実です。日本酒が余った時などに、作ってみるのはいかがでしょうか。
【むむ先生のイチオシ調味料〜煎り酒編〜】
というわけで、煎り酒をお手軽に体験するべく、まずは銀座三河屋の煎り酒から試してみるのはいかがでしょうか。
梅酢を用いているこの煎り酒は、とてもまろやかで使いやすい上に、保存も利きます。
通販で購入する他にも、デパートや高級食材を扱っているお店で手に入ることが多いようです。是非一度味わってみてください。
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50年にわたるグルメ漫画の歴史を、10年ごとに区切り、当時の食文化からどういう影響を受けてきたのか、そして食文化にどういう影響を与えてきたのかを記しました。
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