Rettyグルメニュースをお読みの皆様、こんにちは。「むむ先生」こと、杉村です。
ライター紹介
-
杉村啓
- 日本酒ライター、料理漫画研究家、醤油研究家。 日本酒の基本から歴史・造り方までを熱く語った『白熱日本酒教室』やタモリ倶楽部でも紹介された醤油の奥深さを書いた『醤油手帖』など、食に関する書籍を多数執筆。「むむ先生」として食のコラムや紹介を各メディアで担当。8月末には、グルメ漫画の半世紀を辿る新著『グルメ漫画50年史』を上梓。
「むむ先生の"食"超解説シリーズ」も16回目です。今回のテーマは「最近流行している『酒粕』って何がそんなにすごいの?」というものです。
個人的な印象ですが、定期的に酒粕ブームはきていると感じています。最近でも頻繁にテレビ番組で紹介されたりしていますよね。
でも、よくよく考えてみると、酒粕ってどうしてそんなにも 、すごいとされているのでしょうか。そこを紐解くためにも、まずはどうやって酒粕が造られるのかを見ていくことにしましょう。
「酒粕」ってどうやって造られるの?まず「日本酒」の作り方から紐解く!
「酒」の粕というからには、日本酒を造る過程で出来上がるものだということは、なんとなく知っているという人も多いのではないでしょうか。
日本酒の原材料を見ると、だいたいは「米」「米麹」「水」と書かれています。ということは、酒粕のほとんどは、この3つから成り立っているといえるでしょう。
もう少し詳しく見ていきます。日本酒のようなお酒は、基本として「糖が発酵してアルコール(と二酸化炭素)が出る」ということです。
ビールもワインもこの基本は変わりありません。糖分があるものを発酵させることで、アルコールが生まれるのです。
では日本酒を造るために、お米を発酵させよう……と思うと、これがうまくいきません。
というのも、お米に含まれている成分はでんぷんで、糖ではないからです。そこで、どうにかして、でんぷんを糖に変化させなければなりません。
一番簡単なのは、炊いたお米をもぐもぐと咀嚼することです。
唾液に含まれているアミラーゼという酵素が、でんぷんを分解して糖にしてくれるのですね。実際に噛み続けていると、甘くなってきたという経験をしたことがある人も多いでしょう。
そして、この一度噛んだお米を使って日本酒を造る「口噛み酒」も昔は存在しました。大ヒット映画「君の名は」でも登場して有名になりましたね。
現在では、衛生面や量産の難しさから、日本酒造りに利用されているわけではありません。その代わりに、「麹菌」を利用してでんぷんを糖に分解するのです。
というわけで、日本酒造りの第一歩は「お米が米麹によって醸されて、糖分が生まれる」となるのです。このように、糖分を生み出すことを「糖化」と言います。
ここで生まれるのは糖分だけではありません。
たんぱく質がアミノ酸に分解されたりなどし、食したときに体内に吸収されやすい形として、さまざまな栄養素を生み出してくれてもいます。
糖化を行って、ようやくアルコールを生み出す作業に入ります。ここで登場するのが「酵母」。麹ではなく、酵母が糖分を発酵させてアルコールを生成するのですね。
水の中に麹がお米を分解してどろどろになったものがたくさん詰まっている状態のところに、酵母を入れると、糖分を分解して、アルコールと二酸化炭素を生み出してくれます。
こうして、ある程度アルコールが生み出されたら日本酒がほぼ完成です。
ただ、その時点ではどろどろの半液体のような、固体のような状態です。このままの状態で瓶詰めされたものが「どぶろく」だったりするのですが、いわゆる「清酒」ではありません。
そこで、ろ過をして液体だけを取り出します。そうして取り出された液体こそが、「日本酒」となるのです。他にも細かい工程がたくさんあったりしますが、大まかな流れはこういう感じです。
「酒粕」はどの工程でできる?
日本酒を「ろ過」しているということは、漉された液体と、フィルターなどにひっかかる固体とに分離されます。液体の方が「日本酒」で、残った固体が「酒粕」となるのです。
つまり酒粕は、お米を米麹が分解してドロドロにし、さらに酵母が糖分を分解してアルコールを生み出し、そこから水分を抜いたもの、と考えるといいでしょう。
だから米と米麹からできていると言えるし、アルコール分が残っている(ものによりますが、平均8%ほどと言われています)のです。
酒粕は栄養豊富!
というわけで、酒粕は、お米を一度米麹が分解しているのが最大のポイントです。
唾液によってでんぷんを糖分に分解するように、食べ物を食べるとさまざまな仕組みで、消化しやすいよう分解してから吸収されます。
酒粕は、麹が分解をある程度やってくれているので、お米よりも消化吸収しやすいという利点があるのです。また、麹が活動することで、ビタミン類など、さまざまな栄養素が生み出されたりもしています。
さらに、忘れがちではあるのですが、お米が分解されたあとに搾って残ったものを集めているということは、それだけお米を凝縮したものとも言えます。
というわけで、同じ量のお米に比べると、かなり栄養価が高いのです。
では「甘酒」とはどんなもの?
消化に良く、栄養豊富であるということで、米を米麹が分解した状態のドリンク、これが「甘酒」です。
飲む点滴とも言われるほどの効果があり、昔は夏バテ防止に飲まれていました。現在でも俳句において、「甘酒」は夏の季語だったりします。
酒粕はこの「甘酒」から、さらに酵母が発酵し、お酒の方に栄養素などが溶け出ていった状態ですが、それでもかなり栄養豊富です。
ちなみにややこしいのですが、この酒粕をお湯に溶いてつくる「甘酒」もあったりします。「麹の甘酒」と「酒粕の甘酒」とがあるのですね。
酒粕の効能がまだまだあった!
他にも酒粕には、体に良いさまざまな効能があります。
最近の研究では、食物繊維のような働きをするレジスタントプロテインという、たんぱく質が含まれていることがわかりました。
食物繊維は体内であまり消化、分解されないため、さまざまな不要物を吸着して排出したり、腸のぜん動運動を促進する働きがあるのですが、似たようなことをしてくれるのです。
酒粕の最大のポイントは、食物繊維ではほとんどできない(キトサンという成分は行いますが、それより効果が高い)、油を吸着する効果が高いということでしょう。
食べ物の油を吸着して排出することで、体内に吸収されないようにしてくれるのです。
というわけで、お通じを促進する腸内環境改善効果だけでなく、脂質成分であるコレステロールなども排出することで、血中や肝臓のコレステロール蓄積を低下させ、さらには肥満抑制効果もあるのです。
また、女性を中心に気になる美容効果ですが、こんな実験があります。
平均40歳ぐらいの男性5名、女性7名で毎日酒粕を甘酒の形で摂取してもらい、皮膚水分量、皮膚油分量、皮膚キメ面積率(一定面積中の皮溝の割合)の測定を行ったところ、3週間で皮膚水分量や皮膚油分量は増加し、キメの形が整ったという結果が出ました。
これは酒粕の中に豊富に含まれているアミノ酸がすばやく吸収され、体内でたんぱく質に再生成され、その一部が肌細胞に供給されているからと考えられています。
実験対象人数は少ないのですが、ほぼ全ての人で改善が見られたということは、ある程度の効果があると考えていいでしょう。
ちなみにこれらは、酒粕50gに水250mlを加えた甘酒を毎日飲んだときの結果です。摂取する目安にしてみてください。
料理にスイーツまで…酒粕アレンジ!
そうはいっても、毎日甘酒をつくるのも大変です。そこでこの冬は、酒粕を使った料理に挑戦してみるのもいいかもしれません。一番有名なのは粕汁でしょう。
寒い季節には、酒粕を加えた鍋を作ると、効率良く酒粕も摂取できますし、何より温かくて美味しいですよね。
ほかには、クリームチーズや蜂蜜とよく混ぜ合わせてディップにするという手もあります。パウンドケーキに混ぜ込んでみたりしてもいいでしょう。
また、これはたくさん酒粕を摂取できるというわけではないのですが、さまざまなものを酒粕に漬ける「酒粕漬け」もいいですね。お肉やお魚、豆腐などもいいのですが、個人的にはアボカドや、たらこなどがお気に入りです。
是非、お気に入りの味わいを見つけて、なるべくたくさん酒粕を摂取してみてください!アルコールが苦手な人やお子さんがいる方は、よく加熱してアルコールを飛ばすようにしましょう。
【むむ先生のイチオシ調味料〜酒粕編〜】
酒粕を使ったさまざまな料理がありますが、最近お気に入りなのは、酒粕のラーメンです。
京都の「玄屋」では、名物の酒粕ラーメンを食べることができます。ここの酒粕は、月桂冠のものを使っています。
- 玄屋
-
京都府 京都市伏見区 東組町
ラーメン
同じ京都は伏見にあるお店「伏水酒蔵小路」では、伏見のお酒を1度に17種類楽しめる、利き酒セットが魅力。
その施設内にある「らーめん門扇」では、伏見の酒蔵の酒粕を使ったラーメンを楽しめます。
- 伏水酒蔵小路
-
京都府 京都市伏見区 納屋町
居酒屋
- らーめん門扇 伏水酒蔵店
-
京都府 京都市伏見区 平野町
ラーメン
お酒をたっぷり呑んで、最後の〆として、今日はどの蔵の酒粕のラーメンにしようかな・・・と選ぶのもまた楽しいですよ。味わいの傾向がグラフで描かれているので、どれを選べばいいかわからない人も安心です。
伏見に来たときには、是非足を運び、日本酒と酒粕の美味しさを堪能してくださいね。
■漫画で解説!日本酒教室
日本酒に興味はあるけど、「なんだか難しそう」「どれを選べばいいのかわからない」……。そんなあなたのための“日本酒教室”、はじまりはじまり!詳しくはこちらから http://sai-zen-sen.jp/comics/twi4/nihonshu/0002.html
■グルメ漫画の歴史をまとめた本『グルメ漫画50年史』を出しました
50年にわたるグルメ漫画の歴史を、10年ごとに区切り、当時の食文化からどういう影響を受けてきたのか、そして食文化にどういう影響を与えてきたのかを記しました。
むむ先生への「調味料」の質問を募集中!
むむ先生に聞いてみたい調味料に関する疑問や質問を下記のフォームから質問してみませんか?次回以降の企画の参考にさせていただきます。
・むむ先生への質問はこちら