連載:カツセマサヒコのRettyの食ヲタクと行く、美味しいごはん

お天気姉さん→IT社長→パティシエ!「目黒エリアNo.1食ヲタク」の奇想天外な人生

世の中には、とにかく食べることが大好きな人たちがいる。

いろんなお店に足を運んで、「もっとうまい飯はないか」と探していくうちに、いつの間にか人智を超えた知識と情報量を身に着けてしまい、いつしか「歩くミシュラン」なんて適当なあだ名を友人から付けられてしまう人たちもいる。

この連載は、そういった「食ヲタク」の皆さんがオススメする“とっておきのお店”にライターカツセマサヒコが連れて行ってもらい、一緒においしいご飯を食べながら思う存分「食」について語ってもらうという、大変飯テロな企画です。

さあ、今日も開けてはいけない扉が、勝手に開いていきます。
 
 
 
 

【今日の食ヲタク】

小島和美さん

目黒エリアのほとんどの飲食店を行きつくしたRettyトップユーザー。オーダースイーツ専門のパティシエとして、テレビ・雑誌などの出演多数。IT界隈にいたこともあり、Rettyを立ち上げ当初から愛用している食ヲタクである。
 
 
 
 

目黒エリアを食べ尽くした食ヲタク、登場

――小島さんは「目黒エリアNo.1」のRettyユーザーだと伺いました。「目黒で一位」って、すごくないですか?

「目黒エリア」は、恵比寿・目黒・中目黒でひとつのエリアなんですけど、これって、すごいのでしょうか? よくわからないです(笑) 

―― どう考えたって、東京でも群を抜いてオシャレなエリアですよね。

そうですね。私自身が目黒に住んでいるので、とくに目黒駅周辺については大体のお店に行ったと思います。

―― 目黒といっても、五反田寄りになると、居酒屋もかなりの数があると思うんですけど……。

もう目黒に住んで9年になるので、大体行っていますね。今も、新規オープンしたらとりあえず行く、といった気持ちでいます。

―― もはや、しらみつぶしですよね。すごいなあ。

でも、Rettyの社員さんたちもそんな感じですよ? 以前はオフィスが五反田にあったんですけど、当時から「Rettyは、社員さんたちがオフィス周辺の飲食店を食べ尽くしたら引越す」って言われてました。

――ちょっとしたシロアリじゃないですか!

▲今回お邪魔したのは、千石駅近くのケーキ店「トレカルム」。「男性パティシエが作っているせいか、どのメニューも甘ったるさがなく、見た目もすっきりとしていて建築物のような美しさがある。かっこいいけど、ソリッドすぎないところも好きです」と小島さん。

▲今回お邪魔したのは、千石駅近くのケーキ店「トレカルム」。「男性パティシエが作っているせいか、どのメニューも甘ったるさがなく、見た目もすっきりとしていて建築物のような美しさがある。かっこいいけど、ソリッドすぎないところも好きです」と小島さん。

――そんな小島さんはご職業がパティシエですが、お仕事の関係もあってRettyを続けられているんですか?

普段はパティシエをやっているんですけど、Web制作会社の経営もやっているんです。Rettyが立ち上がったときはWebの仕事をメインでやっていたので、当時のアンテナに引っかかってRettyを始めて、今に至ります。

――Rettyを始められた当初から、「見る側」より「投稿側」だったんですか?

最初は見ていただけなんですが、始めて1カ月くらいたったところでゴールデンウィークに当たって、「何も予定がないし、投稿しようかな」と思い付きで書いてみたら、思ったより反応が良かったんです。それがきっかけになりました。

お天気姉さん→デザイナー→IT社長→パティシエの異色すぎるキャリア

――ずっと昔から料理が好きだったんですか?

小1くらいから料理してましたね。

――小1で料理?

母親がいなかったので、おばあちゃんが母親代わりだったんですけど、おばあちゃんも忙しく働いていたから、「料理どんどんやってくれ」みたいな感じで。

――なるほど。

自分で食材を買いに行くこともよくありました。料理本も好きだったから、小6くらいで仔牛肉を買いにいってました。

――「小6で仔牛肉」ってすごすぎる。じゃあ、幼少期から今までずっと、料理の道を歩んできたんですね。

いえ、学生時代、「料理は好きだけど、趣味に留めよう」って思っていました。

――どうしてですか……?

家が商売をしていたので、会社勤めとか、サラリーマン・OLという感じに憧れがありました。綺麗なビルに通勤する!みたいなのを体験したいと思っていたので最初に就職するべきは飲食業ではないかなと。

――人生をすごい計算している……(笑)

若い頃の私はまだ香川県に住んでいて、最初は天気予報の会社に入ったんです。

――天気予報の会社?

はい。「177」に電話すると流れる天気予報の原稿を書いて、自分で音声を吹き込んでいました。

――今と違いすぎる。

そのうち、安定した職場に飽きてきたんですが、知人に「Macがあればデザインって素人でもできるんだよ」って言われて、面白そうなのでデザイナーになりました。

――「お天気姉さん」から「デザイナー」って振り幅すごいですね。

はい(笑)。そこから、「これからはWebだろう」と思って、Webディレクターになって、会社を起こしました。

――それでIT社長! いつになったらパティシエが出てくるんですか……?

▲この店の人気メニュー「モンブラン」。「このお店の店長さんは、モンブランが苦手なんです。それを克服したい想いで、いろいろな栗を食べて、自分で納得いく味のものを作った。結果、見た目も変わっているし、カシスやフルーツと栗を合わせたオリジナリティ溢れる味になりました」とのこと。超美味い。

▲この店の人気メニュー「モンブラン」。「このお店の店長さんは、モンブランが苦手なんです。それを克服したい想いで、いろいろな栗を食べて、自分で納得いく味のものを作った。結果、見た目も変わっているし、カシスやフルーツと栗を合わせたオリジナリティ溢れる味になりました」とのこと。超美味い。

料理とWebの仕事がつながってくるのはもう少し後ですね。クライアントにあたる化粧品会社のサイトにレシピの紹介ページがあって、「小島さんは料理が上手いし、レシピページの中身もやってみませんか」と、話を受けたんです。

――おお! ようやくつながってきた!

はい。そこでいろいろ勉強しているうちに、料理は自己流でもいいかもしれないけど、お菓子はきちんと習わないと作れないのかなと思って、洋菓子と和菓子、両方勉強できる学校に通いました。

――会社をやりながら、ですか?

そうですね。そこで二年間勉強して、師範としてお菓子作りを人に教えられるようになったのですが、まだケーキのデコレーションに自信がなかったので、それを専門にやっている学校に通って、パティシエとして本格的に力を付けていくことにしました。

――壮絶なキャリアすぎて、本当に驚きました。
 
 
 
 

仕事が途絶えない理由は、RettyとSNSにある!

――小島さんが「社長」ではなく「食のプロ」として生きていこうと思った理由は、何だったんですか?

お菓子作りの勉強をしていたころ、60歳になってもWebのお仕事をやりたいかというと、たぶんやりたくないだろうなと思ってしまったんです。たまたまそのタイミングでRettyが始まって、食のプロみたいな人たちから刺激をもらったこともあり、「一度仕事を休んで、ケーキ屋に修行にいって、パティシエになろう」と決めたんです。

――Rettyで人生が軽く変わってるじゃないですか。

本当にそうだと思います。

――でも、フリーランスのパティシエってどうやって仕事を取ってくるんですか?

私の場合、オーダーメイドのスイーツの依頼がメインなんですが、ほとんどFacebookのメッセージで依頼をいただいています。その依頼も、Rettyで知ってくださった方からのものが多いんです。

――Retty起点でFacebook友達につながり、そこからさらに紹介などで広がって、今に至るんですね。

元々デザイナーだったから似顔絵を描いたり装飾したりするのは比較的得意だったんですけど、Rettyでつながった人たちはみんなグルメに関して拡散力があるから、「小島さんすごい」って誰かが言ったら、どんどん広がっていくんです。そこに助けられました。

――食ヲタクたちの拡散力って、確かにすごそうですね……。

あとは単純に「オーダースイーツを作れるパティシエ」で、個人案件を受けられたり、メディア出演できたりする人がそんなに目立っていないんだと思います。

――そうなんですか?

お店や企業に所属していると、個人を売り出すことがまず難しいですよね。おそらく店舗や企業で修行している人たちの方が私よりずっと上手に作れると思うんですけど、それでもアピールできる環境がない。

――たしかに。逆に個人だと、外に向けてどんどんアピールできるわけですね。

そうです。あとはアピールの仕方なんですけど、たとえばテレビ番組でパティシエとして呼ばれると、「アイスのスーパーカップに小麦粉を混ぜてチンしたらケーキみたくなるのだが、その理由を説明してほしい」みたいなニッチな依頼が来るんですね。

――すごいニッチだ。

そうです。そういうのって、大きな企業やお店だとブランディングの関係もあって出演NGな方が多いのかな、と。でも私はどんどん出られてしまうので。

――たしかに。大きな会社にはできないことがたくさんあるんですね。

そうなんです!
 
 
 
 

「なんとかなる」という気持ちがキャリアチェンジの背中を押す

――小島さんのこれまでのキャリアを聞いていると、スイーツが好き!みたいな純粋な気持ちよりも、「こうすれば食べていけるかも」とか「この仕事が求められているから」とか、とても現実的な理由が多く感じられました。

そうなんです。この連載に出てくる方って大抵は「この分野の食事が本当に好き!」って方ばかりだと思うので、私は本当に例外的かもしれない。仕事として面白いものを探して、それがパティシエだった、という結果論です。

――何度もキャリアチェンジをされることは、不安ではなかったですか?

とくにパティシエになったときは「勇気がある」と言われることもあったんですけど、それを言ったら、振り返ってみるとずっと「勇気」の連続なんです(笑)。Web制作会社を東京で起こしたときも、ツテも何もないのに上京しましたし。

――就職をきっかけに東京に出るだけでもハードルが高いのに、四国から出てきていきなり起業って確かに恐ろしい……。

私、コミュニケーション力もそんなに高くないんです。でも、経営者として東京に出てきたときはとにかく勇気を振り絞って、ほかの経営者が集まる勉強会などにどんどん参加して、「何もわからないので教えてください!」って、恥をいっぱいかきながら、田舎者丸出しで頭を下げていました。

――今となってはいいエピソードですね。

――東京で経営していくことに不安はなかったんですか? お腹が痛くて眠れないとか。

頭の中でシミュレーションをして「どうしよう?」っていろいろ考えすぎた結果、眠れなくなることはあるけど、でも、漠然と不安で眠れないということはないのかもしれないですね。あとは、「仕事で殺される人間はいない」って頭でわかっていたので、「命を取られるわけじゃないし、余程だめだったらもう謝ろう!」って、腹を括っていました(笑)

――「なんとかなる」ってやつですね。

そうですね。クリスマスが近づくと、三日連続徹夜の日もあるんです。「できるのかな?」って不安に思っても、「でもきっと納品後には笑っているだろうな」って前向きでいられます。時間って平等に過ぎていくし、キツくても最後には「何とかなったね」って笑えるはずだから、きっとそのときになればどうにかなる。そのために頑張ろうって思っています。

――挑戦する人の背中を押すメッセージだったと思います。ありがとうございました!
 
 
 
 

おわりに

こうして目黒エリアNo.1食オタク・小島さんの取材は終わりました。

「パティシエなんだし、スイーツ好きなんだろうな! 目黒ってスイーツ多いのかな!?」とあらぬ期待をして取材に挑んだのですが、「あ、お酒が好きです。目黒エリアは美味しい居酒屋さんが多くて」という第一声からその異色すぎるキャリアまで、意外性の塊のような人が、小島さんでした。

「アラフォーになってからパティシエを目指すのは遅すぎて、同僚にはハタチ前後の子もたくさんいました」と語る小島さん。挑戦するのは何歳になってからでもいいことを改めて教えてもらいました。

世の中は、僕の知らない世界で溢れている。
次回も食のディープな世界の片鱗を探しにいきます。

ライター紹介

カツセマサヒコ
カツセマサヒコ
Twitterのフォロワー数11万以上。妄想恋愛ツイートが話題の、通称"タイムラインの王子様"。取材記事・エッセイ・小説・作詞・脚本など書くこと中心に幅広く活躍している。
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