連載:カツセマサヒコのRettyの食ヲタクと行く、美味しいごはん

「1杯のコーヒーから世界を知る」コーヒーヲタクが話す、趣味を極めることの魅力

世の中には、とにかく食べることが大好きな人たちがいる。

いろんなお店に足を運んで、「もっとうまい飯はないか」と探していくうちに、いつの間にか人智を超えた知識と情報量を身に着けてしまい、いつしか「歩くミシュラン」なんて適当なあだ名を友人から付けられてしまう人たちもいる。

この連載は、そういった「食ヲタク」の皆さんがオススメする“とっておきのお店”に連れて行ってもらい、一緒においしいご飯を食べながら思う存分「食」について語ってもらうという、大変飯テロな企画です。

さあ、今日も開けてはいけない扉が、勝手に開いていきます。

(※取材日は寒かった時期ですが、諸事情(主に遅筆)につき、本日の公開となりました。)

【今日の食ヲタク】

Kaya Takatsunaさん

圧倒的なカフェイン摂取量を誇るコーヒーヲタク。普段は海外滞在経験を活かして通訳や翻訳の仕事をしているが、コーヒーが好きすぎて、コーヒーを評価する国際資格「Qグレーダー」を取得したり、バリスタへのインタビュアーを務めたり、自らロースターに声をかけて「川越コーヒーフェスティバル」を開催したりしている。

たった1杯のコーヒーとの出会いが人生を変える

――Kayaさんは、いつからコーヒーに目覚めたんですか?

両親がコーヒー好きで、家でサイフォンで入れるような感じだったんですよね。物心ついた頃から、コーヒーの香り溢れる家だったんです。

――じゃあ、その頃からもうKayaさんもコーヒー好きだったんですね。

でも、今みたいにおかしなくらい好きになったのは、きっかけがあるんです。私、2004年からアメリカのハリウッドに10年間住んでいたんですけど、ある日、隣町のシルバーレイクに「インテリジェンシア」っていうシカゴのコーヒー屋ができたんですよ。そこのコーヒーを飲んだときに、なんだかもう、頭を撃ち抜かれたような衝撃の味がしたんです。そこからですね。

――すごい、たった一杯のコーヒーで変わったんですか!

そうです! 最初は「なんか素敵なお店ができたな〜」くらいの好奇心で行ったんですけど、びっくりしたんです。あの味は、まだ覚えています。

▲今回お邪魔したのは、渋谷にあるセレクトコーヒーショップ「THE LOCAL COFFEE STAND」。「今どこのお店が美味しいコーヒーを出しているか、ここに来れば分かる」とKayaさんが激推しする優秀すぎる店だ。働いているバリスタさんたちも豊富な知識を持ち、いろんな情報が入ってくるし、2階のラボではバリスタたちのための勉強会なども開かれている。

▲今回お邪魔したのは、渋谷にあるセレクトコーヒーショップ「THE LOCAL COFFEE STAND」。「今どこのお店が美味しいコーヒーを出しているか、ここに来れば分かる」とKayaさんが激推しする優秀すぎる店だ。働いているバリスタさんたちも豊富な知識を持ち、いろんな情報が入ってくるし、2階のラボではバリスタたちのための勉強会なども開かれている。

――コーヒーって、素人からするとあんまり違いがわからないと思うんですけど、頭を撃ち抜かれるほどの衝撃って、どんな味だったんでしょうか……?

例えば今まで飲んでいたコーヒーが、わりと深めのスターバックスとかにあるコーヒーだったとしますよね。それが当たり前だと思って飲んでいたところに、ハンドドリップでその場で挽いて淹れてくれて、浅煎りで、コーヒーの豆が元々持っているフルーツ感だとか酸味だとかがいきなり口の中に入ってくるわけですよ。わかりますか、その衝撃!

――うん、Kayaさんの勢いにびっくりしましたけど、これまでコーヒーと認識されているものと、全く違う感覚だったってことですかね?

そうです! 当時の私からしたら紅茶かコーヒーかもわからないような、ガツンとした酸味があったんですよね。それで、好き嫌いとかの以前に、「これ、コーヒーなの!?」って驚きがあって。そこから毎日いろんなものを飲むようになって、始まっちゃったんですよね。「コーヒーって何なんだ?」って道が(笑)

1日20杯! コーヒーへの圧倒的執着

――お店の見つけ方とかはどうしているんですか?

こうしたお店の店員さんとかバリスタさんから聞くのが一番当たりですよね。間違いない。あとは、歩いていてここ良さそうって何か感じるものがあって、入ると大概美味しいです。

――出た。第六感。Rettyトップユーザーの人って皆それを言うんですよ。どうなってるんですか本当に。

あはははは(笑)。でも、私もそれはありますね(笑)。

――かなりコーヒーを飲まれていると思うんですが、年間どれくらい行かれているんですか?

数えたことがないですけど、例えば仕事でアメリカやヨーロッパに行くこともあるので、そういった機会には「この日だけはどうにかコーヒーの日にしよう」って決めています。それで、1日15軒とかまわって15〜20杯飲んでます。

――15〜20!?

最後の方はカフェインで痺れが出ますね(笑)

――なんでそんな自分を追い込むんですか(笑)

コーヒーに関してはM なんでしょうね、きっと(笑) 。

コーヒーヲタクが話す、コーヒー入門

▲店内カウンター席では店員と話す常連のお客さんの姿も。どこまでもおしゃれ。

▲店内カウンター席では店員と話す常連のお客さんの姿も。どこまでもおしゃれ。

――Kayaさんが考えるコーヒーの入門編的な楽しみ方って、ありますか?

んんー、自宅で楽しむとして、豆とかが全然分からなかったら、極端な話ジャケ買いとかでもいいと思いますよ。

――ジャケ買い! CDみたい!!

最近のコーヒー豆ってラベルがレコードみたいにおしゃれなんですよ。だから自分が「かっこいいな、おしゃれだな」と思ったやつを買ってもいいし、絵がいいなと思って買ってみたら、もしかしたら自分の好みにハマるかもしれない。

――そんなラフな選び方でいいんですか!

最初は好奇心のまま楽しむのがいいと思います。例えば埼玉県熊谷にある「ホシカワカフェ」ってお店の豆はどれも抽象画みたいなラベルなんですけど、それはデザイナーがコーヒーを飲んでイメージした絵をそれぞれラベルにしているからなんです。

――ってことは、もしもそのラベルにピンと来たお客さんがいたら、味にもピンとくる可能性があるってことですね。

そう。だからジャケ買いって、結構ありだなと思うんですよ。どこのお店も豆にすごくこだわっているし、最近のお店はラベルも豆とリンクしているところが多いと思います。

あとこの前、Rettyでレビューを書いていたら、あるユーザーさんから「表現が分かりづらい」って言われたんです。私、「このコーヒーはきゅうりのような味がする」とか言っちゃうんですよ。そしたら「全然分かんないです」って言われて。

――ひどいなあ。それで、どうしたんです?

そしたらその方に、「有名人とかに例えてほしい」って言われて。

――有名人!?

コーヒーを人に例えるって本当に難しいんですけど、自分でもチャレンジだと思って、最近はレビュー中に「コーヒーの味を有名人で例えるシリーズ」を始めたんです。

――チャレンジングすぎる (笑)

この間は、盆栽があるお店だったので、「麻生久美子さんみたいな味です。お店も含めて」とか書きました。

――妙な説得力があるから不思議だ。

男性のときもあります。「真田広之さんみたいな味」って書いたりします。

――真田広之ファンがめちゃくちゃ喜ぶかめちゃくちゃ怒るかのどっちかですね。

結構怪しくて、毎回ドキドキしながらやっています。

――スリルを求めすぎですよ!(笑)

でも、人に例えた途端に、正解はなくなりますからね。私のレビューを見て「全然そんな味しませんでした」とか、むしろ言ってほしいんです。「私はこうでした」とか「いやどこが真田広之なんですか」とか言えるってことは、そのコーヒーを知るきっかけになったってことですから。

――なるほどなー……。

どこのコーヒーのPR屋でもないんですけど、どうやったらいろんなコーヒーの素晴らしさが伝わるのか、日々試行錯誤です。味の表現って、難しいですからね。

チェーン店について思うこと

――コーヒー店って、日本ではドトールやスターバックスってイメージがあると思うんですけど、そういったチェーン店に対して思うこととかはありますか?

例えばスターバックスは今、ガラッと雰囲気を変えたお店をいっぱい作っているんですよ。「リザーブ」って言う希少なコーヒー豆を扱う店舗があるし、店員さんも下北沢の代沢5丁目店なんかは私服で勤務していておしゃれです。あと、今年の年末には、太宰府天満宮表参道店に次いで、隈研吾さん設計のコンセプトストアが目黒にオープンするし、建築を見るのも楽しみです。

――ほおほお。

ドトールも、池袋にある「梟書茶房」ってお店とかは書店とコラボしているし、雰囲気から今までのドトールを全く感じさせないんですよ。それって昨今のトレンドとして、チェーン店のコーヒーショップも、ユニークで魅力的な個人店の雰囲気に寄せてきているのだと思うんです。

他にはつい最近、環境のことを考えて、スタバがプラスティックストローの使用禁止を発表しましたよね。

そういう動きが社会現象になって、世の中をより良い方向へと導いていけるっていうのは、世界に多くの店舗を持っているからこそできる無限の可能性だと思います。一杯のコーヒーが世界を変える力があるって本当に素晴らしいことだと思いませんか?

それから、チェーン店だけでなく、最近は若い人たちも昔ながらの喫茶店への憧れを抱いて、お店を出しているんですよ。彼らは「バリスタ」じゃなくて「マスター」って呼ばれたほうが嬉しいみたいなんです。

東京はそういった方たちが活躍する個性的な個人店も多いので、 ただグルグル回っているだけでもすごく楽しいです。

――個人店は特に、「その店でコーヒーを飲んでいる自分も好き」みたいな、経験を提供しているところもあるだろうなって思います。

そうかもしれないですね。でも、バリスタってホスピタリティに長けているし、知識も豊富だし、凄く勉強もしているし、技術も高いのに、まだまだ地位やお給料が見合っていない気がします。

一杯のコーヒーから得る利益ってそれほど大きくないですからね。

それでも、情熱を持ってコーヒーの素晴らしさを心から伝えてくれるのは凄いなぁと思うし、本当にコーヒーが好きなんだなぁって思います。そういうひとりひとりの努力を、純粋にいろんな人に知ってほしいって気持ちもあります。

――確かに、コーヒーって原料も高いですよね。

最近は国別のオークションで、すごくいい豆を作ったら値が上がるようになっているんですよ。高いのだと、80gで8,100円とか。

――高っ!!!!

そのくらいの価格にしないと、見合わない豆もあるんです。いいコーヒー豆は、優秀な農園がかなりの時間と手間とコストをかけて育てたものですしね。

何事もハマると見えてくる「時代」と「世界」

――最後にお伺いさせてください。今はコーヒーのフェスまで開催してるKayaさんですけど、コーヒーを広めたい!って思うほどコーヒーにハマる理由は、何ですか?

何ですかね……。私、昔から本当にハマり症で、何でも好きになったらかなり遠くまで行っちゃうんですよ。ちっちゃい頃から長くやっているものも、何個かあるんです。

――例えば何があります?

書道、ダンス、最近だと、演劇。自分も舞台役者をやっていたんですけど、10年間アメリカにいたのも、元はと言えば演劇のためだったんです。本場のハリウッドやNY知りたくて、行っちゃったんです。

――それは確かに、好きすぎる。

そうやってハマると何が見えるかっていうと、「世界」が見えるんですよ。変な言い方ですけど。

――世界? それは、「より本格的な、すごい人たちのものを見たくなる」って意味で世界が見えるってことですか?

それもあります。あとは、役を演じながら、何万冊もある演劇に関連する文献を読み漁るわけですよ。すると、「当時この世界でどんなことが起こっていたから、この作者はこの物語を作ったのか」とか「当時はこういうことを問題提起しなきゃいけない時代だったんだ」とか、その時代ごとのテーマが見えるんですよね。

――なるほど? 深掘りすると、時代背景まで見えるんですね?

そうです。たとえば400年前のシェイクスピアの戯曲を読んだら、こんな古語で愛を語っていたんだとか、この時代は女の人が舞台に出られなかったんだとか、社会情勢がすごく分かる。学校の勉強とは違う自分なりのやり方で世界を知ることが、おもしろかったんです。

――めっちゃいい話だ……。

コーヒーも、数年前まではイエメンのコーヒー豆がもっと入ってきていたはずなのに、今あまり飲めなくなっちゃったのはなんでかというと、そこで内戦が起こっているとか、紛争が起こって飲めなくなっちゃったとかに気付くんです。

それから、今までコーヒーは赤道付近にある国々が栽培していましたが、ITやバイオ技術の進歩によって、最近はアメリカのカリフォルニア州でもコーヒー栽培が始まったんですよ。

温暖化の影響もあるかもしれません。社会や科学、気候の変化に応じて、世界のコーヒー生産エリアも日々刻々と変化してることを感じますよね。

他にも、「フェアトレード」っていう名前はあるけど、本当にフェアかどうかは常に物議を醸しているし、実際は発展途上国の生活レベルは上がっていなくて、学校に行ける子も全然増えていないという現実を知ることもあるんです。

――なるほど……。

コーヒーをただ美味しい! 美味しい! って広めるだけじゃなくて、広めたことによって、豆を育てている人たちが良い暮らしをするとか、学校に行けるようになるとか、また違うかたちで何か恩返しができるんじゃないかって、そんなことを思っています。

――世界を知るのは、時代を知ることでもあるんですね。

そうです。今のコーヒーの流れと50年前のコーヒーの流れは全然違うし。今、日本の喫茶店を古い順にめぐる企画もやっているんですよ。

――古い順にめぐる! おもしろそうですね。

そもそも今も残っている喫茶店が少ないんですけど、明治時代の終わりから始めて、まだ残っている喫茶店も何軒かあるんです。

――明治時代の終わり!? すごい。一番古い店って、どこですか?

改築はしているんですけど、銀座の「カフェーパウリスタ」が最古と言われています。でも、細かく言えば「ミルクホール」っていう牛乳から始まった喫茶店の方が創業が早いこともあって、一概には決められないんですけど。

――なるほどー、やっぱり一筋縄ではいかない感じなんですね。

古い順に歴史を辿っていくと、やっぱり喫茶店のでき方とか、全然違うんですよね。そのときのコーヒーの飲まれ方とかも全然違うから、終わりがないです。誰にも頼まれていないのにやってるんだから、バカですよね(笑)

――でも、誰にも頼まれていないのに、仕事でもないのにできるものこそ、人生を豊かにしてくれる気はしますよね。頼まれていなくてもやれちゃうことって、やっぱりいいなってすごく思いました。ありがとうございました!

おわりに

何事にもハマり症のKayaさんに今後の夢を尋ねると、「実現するのにはまだちょっと時間がかかりそう……」と言いながら、奄美大島で国産コーヒーを作るプロジェクトを進めていることを教えてくれました。

「私に何ができるかって言われたら、南米やアフリカのコーヒー農家を紹介するくらい。基本的にはただ応援するだけなんですけど、3〜4年かけてどうにか実をつけて、仲間達とみんなでそのコーヒーを飲みたいんです」と話すKayaさんの目は本当にキラキラしていて、趣味の領域を超えて何かを生み出そうとする人は本当に魅力的だなと改めて思いました。

世の中は、僕の知らない世界で溢れている。
次回も食のディープな世界の片鱗を探しにいきます。

撮影:Atsuko Tanaka

ライター紹介

カツセマサヒコ
カツセマサヒコ
Twitterのフォロワー数11万以上。妄想恋愛ツイートが話題の、通称"タイムラインの王子様"。取材記事・エッセイ・小説・作詞・脚本など書くこと中心に幅広く活躍している。
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