連載:コーヒー男子図鑑

38年コーヒー嫌いだった写真家・鈴木心は、なぜコーヒー屋をオープンしたのか

皆さまこんにちは。Retty Top Userでコーヒーをこよなく愛するKaya Takatsunaです。

連載「コーヒー男子図鑑」、第19回目のゲストは鈴木心さんです。

鈴木さんは、広告業界では誰もが知る、第一線で活躍するフォトグラファーですが、今年6月、東京・神田に「コーヒーの日」というコーヒーショップを突然オープンしました。

全国各地のカフェで定期的に開催する「鈴木心写真館」でも注目を集める鈴木さん。実は昨年までコーヒーが飲めなかったという鈴木さんが、コーヒショップを開くにいたったきっかけとは。

【コーヒー男子ファイル 19】
名前:鈴木心 Shin SUZUKI
誕生日:10月24日
出身地:福島県郡山市
趣味:メルカリで昔のゲームのキャラクターグッズを買うこと
会えるお店:コーヒーの日
note:https://note.mu/suzukish1n
Twitter:https://twitter.com/SUZUKISH1N

お客として訪れた翌日から店主の元で修行をスタート

──鈴木さんは、お店をオープンする数ヶ月前まで、38年間コーヒーが飲めなかったと伺いました。

子供の頃から、コーヒーの匂いは良いけど、飲むと最悪でした。飲むたびに頭が痛くなったり、お腹を下したりしていたんです。 有名店のコーヒーを飲んでも体調が悪くなるので、もうカフェインは一生無理かなって思ってました。

──そんな鈴木さんを大きく変えた体験はなんだったんですか?

知り合いに連れられ、たまたま入ったお店のコーヒーが凄く飲みやすくて衝撃を受けたんです。「何で飲めるんだろう」って思い、メニューに書いてあった解説を読みました。そこには、コーヒーは果物の種であることや、焙煎することの意味、深煎りに対しての疑問などが書かれていました。

酸味を出しすぎることなく、トロピカルフルーツみたいな甘味のあるコーヒーを出すにはどうしたらいいか、という部分にとても惹かれたんです。

──どこのお店ですか?

広島にある「カフェモンク」というお店です。店主の吉田さんが提唱しているのは、イタリアンローストでもフレンチローストでもない、“ジャパンロースト”という浅めの焙煎。タイマーも温度計も使わずに、自分で匂いを確認して判断しましょうっていうやり方なんです。突如思い立って、そのまま次の日から2日間、修行させてもらいました。

──え?写真家なのに、いきなりコーヒー屋さんで修行したんですか?

実は当時、神田のこの場所でカフェをオープンするはずだった方ができなくなってしまい、代わりに僕が出来るかどうかの可能性を探っていたんです。そしたらどんどん知りたくなってしまって、北欧にも行ってコーヒー屋さんを何軒も廻ってきました。

──でも、たまたま入ったお店でいきなり翌日から修行するって、ぶっ飛んでますね。

いやいや、それはやらない人の方がおかしいと思うんです。今改善しなくちゃいけないタスクがあったら、いつやんの?と。明日だって、、、生きてるかわからないじゃん、って思っちゃうんですよ。

まぁ、時間に対して貧乏性というか、せっかちで飽きっぽくて、めんどくさがりな性格なんでしょうね。

──行動力がありますね。

自分しかできないこと、他の人がやらないことを探していくしかないじゃないですか。そこで、まずは自分だけのコーヒーの地図を作って、自分の行きたいところに辿り着こうと思いました。

いろんなコーヒー店に行ったり、ありとあらゆるコーヒー器具を買ったり、抽出方法は本にあるものを片っ端から全部試したり。何度もテストを繰り返しました。

元Appleエンジニアが作った理想のコーヒーマシン

──何か気づいたことはありましたか?

コーヒーショップにいろいろ行った時に、どこもすごく閉鎖的な感じを受けましたね。コーヒーの世界も写真業界と同じで、先入観でがんじがらめになっているなと。それからは、固定概念にとらわれていないコーヒー屋を探し続けました。

──探してたお店は見つかりましたか?

それで辿り着いたのが、福岡の「KAMAKIRI COFFEE(カマキリコーヒー)」というお店です。ダグラス・ウェーバーという元Appleのエンジニアがオーナーなんですけど、彼は自分が欲しいものが世の中にないからって、ハリウッド映画で宇宙船を設計したこともある技術者のリンと2人で、EG1というグラインダーを開発したんです。

ミクロン単位でコーヒーの挽き目を制御できる精巧な機械で、これなら自分のコーヒーを具現化できると確信しました。今のところ、 EG1以上にコーヒーの旨味を出せる機械はないと思っています。

リン・ウェバー・ワークショップの開発したグラインダー”EG1”。航空宇宙機の部品を製造する工場に、加工を依頼したという斬新なデザインも印象的

リン・ウェバー・ワークショップの開発したグラインダー”EG1”。航空宇宙機の部品を製造する工場に、加工を依頼したという斬新なデザインも印象的

──いろんな方との出会いを通して、鈴木さんのコーヒーの地図が完成していったのですね。

ダグラスには、「今の時代にアップデートされた正しいことをやったら、唯一の存在になれる」と教わりました。「カフェモンク」の吉田さんには、「こうあるべきと思われているものに対して疑え」と言われたことが心に残ってます。

それから、もう1人、バンコクで出会ったイギリス系アフリカ人の友人ニコラスに、「バリスタはマシンになってはダメ。常にシェフでなければいけない」って言われたことも大きかったですね。それらは、僕の中で写真と結びついて、結局コーヒーは写真のやり方と同じでいいんだって肯定してくれた人達なんですよ。

メニューは一切ないけど、あなたに合ったコーヒーを

──ところで、このお店にはメニューが見当たりませんが、 どういうシステムなのですか?

どのドリンクも1杯500円でお出ししています。 問診しながらお客様の求めている味を分析して、指南していくんです。言ってみれば、僕がメニューみたいなものですよね。

──ユニークですね。シュミレーションしてみたいのですが、ドアを開けてお客さんが入ってきたら、みなさんどういう反応ですか?

「うーん、えっと、、、」みたいな(笑)。

──笑。どうやって問診するんですか?

まずはホットとコールド、どちらの気分か伺います。それから、スッキリとまったりどちらが良いか。そして甘めか、苦めか。基本的にはエスプレッソの味をまず知ってもらって、そこからどうやって割ろうかなってカスタマイズしています。

リキュールと合わせるか、炭酸割りにするかでも違ってきますし、甘めならミルクに蜂蜜を入れるのも良いし、辛くしたい人には、炭酸に乾燥ショウガを振ることもあります。

あとはお話を伺いながら、どのくらいコーヒーの味を残してあげたら良いかも判断しますね。

──みなさんの反応はいかがですか?

その人が能動的に選んだものを出しているので、自分の欲しかった味だって理解してもらえます。そういうコミュニケーションを軸にしたコーヒー体験によって、自分にとってのコーヒーを深めてもらえたら、特別な「コーヒーの日」になりますよね。ここでは、他のお店との明らかな違いを体験してもらいたいんです。

エスプレッソをミルクで割ったアイスラテ。お客さんの好みに合わせて、濃度を調整している

エスプレッソをミルクで割ったアイスラテ。お客さんの好みに合わせて、濃度を調整している

写真とコーヒーは共通点だらけ

──写真とコーヒーって共通する部分がありますか?

たくさんあります。例えば、フィルムを現像する作業は、温度と時間で管理するんです。現像する人の考え方によって、撮った画像が実際よりも硬いネガになるとか、眠いネガになるとか、っていうコントロールをしていく。

調合する薬品を変えることもあるし、つまり現像者による解釈が入るんですね。それは、焙煎にも通じるところがあります。

エプロンは、昔好きだったゲームに登場するキャラクターものをメルカリで見つけて購入したもの。店内には、自身の撮影した写真が飾られている

エプロンは、昔好きだったゲームに登場するキャラクターものをメルカリで見つけて購入したもの。店内には、自身の撮影した写真が飾られている

──興味深いです。

ただ、全く見えない暗室でやらないといけない写真と違って、コーヒーは匂いがあるし、色もはっきり見える(笑)。だから、写真よりもトライ&エラーが少なく済んでます。

──逆に全く違うことってありますか?

ないと思います。ただ、コーヒーの豆はほとんどがアフリカや中南米で作られていますし、種蒔きから1杯のコーヒーになるまで、日本だけで完結しない場合がほとんどなので、写真よりもっと広く世界と関わっていくのかもしれないです。

──なるほど。では鈴木さんが写真家として、一番大切にしてきたことってなんですか?

僕が写真で大切にしてきたのは、写真以外のこと。つまり、何を撮って、何を伝えるかというコミュニケーションの部分です。

だから、コーヒーも器具にこだわって技術を磨くことは大切ですけど、最終的には僕のコーヒーを飲んだ人がどういうことを感じて、どんな気持ちになってほしいかだと思います。

──最後にまだ叶ってない夢があったら教えてください。

写真とコーヒーをもっとクロスさせていきたいです。カフェとキッチン、写真スタジオが併設されていて、撮影前後にコーヒーを飲めたり、料理を食べたりできるようなところを作りたい。

みんなでレストランにご飯を食べに来るついでに、ふらっと寄って写真が撮れるような、気軽に寄れる写真館があったら良いなと思っています。

写真とコーヒーの共通点を見出し、新しい視点で鈴木さんにしかできないことを実現しようとする前向きな姿が印象的でした。

さて、コーヒー男子図鑑は今回をもって最終回となります。全19回、20名のコーヒー男子に、それぞれのコーヒーに対する熱い想いや感動的なエピソードをたくさん語っていただきました。

取材にご協力いただいたコーヒー男子の皆様、毎回楽しみにしてくださった読者の皆様ありがとうございました!

今後は引き続き、私自身のメディア「You are Beautiful」で素敵なコーヒーピープルやライフスタイルを特集していきます。これからもどうぞよろしくお願いいたします!

(撮影:片渕ゆり)

ライター紹介

Kaya Takatsuna
Kaya Takatsuna
Retty TOP USER。美味しいコーヒーがあるだけで幸せな人。コーヒー好きすぎて、コーヒーの味を評価する国際資格”Qグレーダー”まで取得してしまいました。地元で川越コーヒーフェスティバルを主催してます(^^) アイスクリーム、あんこ、チョコレートも中毒レベル。
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