<Retty>がおこなった調査では、2020年8月以降の売上予想について2割以上減と回答したお店が86%を超えました。
“ウィズコロナ”と言われるニューノーマル下をお店はどう生き抜くべきか。
テレビでも話題となった「チーズテリーヌ」を販売する<h.u.g-flower>の遠藤雄一氏に「『BASE』でチーズテリーヌの販売をはじめた経緯」と「『BASE』だからできたこと」について訊きました。
<プロフィール>
遠藤雄一氏
1982年生まれ。2008年に独立し、岐阜県で生花店<h.u.g-flower>を営む。
「温度差で花が傷むから」と冷蔵庫を持たない独特のスタイルと、音楽家や写真家とのコラボイベントなどで人気を博す。2019年、横浜にチーズテリーヌ専門店<h.u.g-flower YOKOHAMA>をオープンさせ、ピーク時にはECと実店舗で1日最高2,800本を売る人気店に。
<連載一覧>
飲食店の約9割が今後も「売上減」を予想! ミシュラン二つ星シェフが考える、 Withコロナ時代を生き抜くために必要な飲食店の戦略とは
売上激減期の麺屋武蔵を支えたのは、30分で作ったネットショップだった。人気ラーメン店が「BASE」を選んだ理由とは
岐阜の生花店が、横浜にチーズテリーヌ専門店を出店した理由
――<h.u.g-flower>は岐阜の生花店だとうかがっています。なぜ横浜にチーズテリーヌ専門店をオープンさせることになったのか。その経緯を教えてください。
遠藤 もともと岐阜で<h.u.g-flower>という生花店を営んでいまして、2014年からカフェを併設し、そこでチーズテリーヌを提供していたんです。
横浜への出店は、カフェを設計してくれた設計事務所が横浜貿易会館に入ることになり、「隣で生花店をやりませんか」と誘ってくださったことがきっかけです。
――実際には、<h.u.g-flower YOKOHAMA>は生花店ではなく、チーズテリーヌ専門店として出店されましたが、どういった背景があるのでしょうか?
遠藤 僕が本気でどこよりもおいしいと思っている、自分のカフェのチーズテリーヌを地元・岐阜以外の地域にも届けたい。そんな思いもあって「チーズテリーヌ専門店ではいかがでしょう」と逆提案をさせてもらったところから、出店へ向けてスタートを切りました。
「BASE」でのECサイト立ち上げはとてもかんたん。そのぶん、商品写真などの素材作りに手をかけた
――実店舗オープンと「BASE」でのECサイトの立ち上げ、どちらも2019年の9月ですよね。それぞれ準備にどれくらいの期間がかかりましたか?
遠藤 はじめて横浜の物件を見に来たのは2019年6月で、オープンが9月29日ですから、その間4か月弱。
物件のほうは店舗のデザイン、バックヤードの製造設備をふくめた設計から施工、保健所の許認可など、その間はフル回転でした。
一方、ECサイトの作り込みは9月に入ってからで、「BASE」でサイトを立ち上げること自体はとてもかんたんでした。アカウントを作って、画像をはめて商品説明を書いていけばいい。
ただ、はじめての通販ですから、サイトのコンセプトや単価もふくめた商品設計、パッケージのデザイン、商品写真の撮影など、載せる素材の準備は入念におこないました。
――パッケージにも高級感がありますし、写真も美しいですね。
遠藤 通販用のパッケージは、高級感を演出したかったんです。サイト用の写真もご縁のあった写真家に撮ってもらいました。
岐阜時代は1ピース500円、箱なし1本3,000円という価格でしたが、現在は金の箔押し加工の質感のいい貼り箱に入れて1本3,800円。送料込みでちょうど5,000円、という設定です。
ECをどこで作るか? 最初から「BASE」一択でした
――もともとは、店舗よりもEC重視で考えていたんですか?
遠藤 いえ、最初は店舗がメインで、ECはあくまでも補助的な立ち位置のつもりでした。同時に走らせて、店舗が認知を得るまでは、ECが売上を補填するようなことをイメージです。
――「BASE」を選ばれた理由は何だったのでしょうか?
遠藤 もともと購買者としてよく利用していて、シンプルで抜群に使いやすかったので、最初から「BASE」一択でしたね。
モール型ECなどは、デザインを出店者側でコントロールできる部分がすくないので、ブランドにいい影響がないと考えて、ほとんど検討すらしていません。
といっても、ECサイトを立ち上げたばかりのころは、ブランドがいまほど浸透していたわけではないので、1日に1本か2本しか売れない日もありました。
関東地区にしぼりこんでInstagramに広告を出していましたが、アクセスはあるものの、売上にはつながらず、最初の月は70本程度しか売れていなかった、と記憶しています。
――ところが、オープン1ヶ月後の『マツコの知らない世界』でマツコ・デラックスに絶賛されたことで、<h.u.g-flower YOKOHAMA>のチーズテリーヌは大ブレイク。いきなり“神スイーツ”の仲間入りを果たしました。
遠藤 放送が決まって、生産体制を増強しましたが、放送直後には最高で1日2,800本の注文が入りました。いきなり大きな波がやってきて、ただただ製造とお客様対応に追われる日々……。
なんとか、生産数の限界となる5,000本の予約を、3か月かけて作り切りましたが、いま思うとほんとうに「BASE」でショップを作ってよかったですね。
――「『BASE』でよかった」のは、具体的にはどういう部分ですか?
遠藤 まず、サーバの安定感です。自社サイトだったら確実にサーバが落ちて、一定数のユーザーの信頼を失っていたと思います。
加えて、何をするにもシンプルなステップで解決できる。「BASE」を使い込むほど、自社であれだけのものを作るのは、不可能だと痛感します。
――テレビのオンエア後、殺到する注文をどうさばいたのですか?
遠藤 これはもう、「BASE」さんのサポートのおかげです。テレビのオンエア直後って、注文以外にも何千件とお問い合わせのメールをいただく。
とても人力ではさばけません。疲弊しきって途方に暮れていたら「FAQを作られたらどうですか?」とアドバイスしてくださった。
冷静になればわかることでも、渦中にいると見えなくなることがあって。そういうときにサポートを得られたのは、本当にありがたかったです。
――たしかに、ショップのFAQには「発送の日にち指定や時間指定はできますか?」「商品2点購入の場合の送料を教えてください」など、定形質問と回答が掲載されていますね。
遠藤 何回もいただく質問をFAQに追加していったおかげで、いまではお問い合わせのメールは1日2~3通にまで減りました。
もし1日に何百通もの問い合わせ対応に迫られたら、それだけのために専任のスタッフを何人も配置しなければいけなくなってしまいますからね。
――現在、ECのスタッフは何人いるのでしょうか?
遠藤 ほぼ専任の担当が1人いますが、最近は2人体制に近いですね。すくなくなったとはいえ、問い合わせ対応もありますし、1日平均100本近くの発送業務もある。
逆に言うと、受注から発送業務までこの人数でさばくことができるのは、「BASE」のシステムが効率的だからだと思います。
――ちなみに今年のコロナ禍のなか、実店舗の営業と「BASE」のバランスはどんなふうに取られましたか?
遠藤 3月末から5月いっぱいまで、基本的に店頭販売はお休みしていました。
緊急事態宣言発表直前の4月4日の土曜日に『嵐にしやがれ』でも取り上げられたので、翌日の4月5日の日曜日、1日だけ「売り切れなし」で店を開けましたが、あとは店を閉めて「BASE」でのEC業務に徹していました。
トータルでの売上は、まったく落ちなかったですね。ほんとうに「BASE」があってよかったです。
このころから、軸足はECだとはっきり意識するようになりました。現在は月産3,000本ペース、近いうちに月産4,500本体制を調えようと考えています。
見るべきは競合ではなく、自社商品
――<Retty>の調査ではECとスイーツ業態は相性がいいと考えている事業者が多く、実際にECモールなどにもたくさんのショップが出店されています。ECをはじめるとき、スイーツ店の競合の存在は気になりませんでしたか?
遠藤 気にならなかったですね。僕はとにかくおいしいものが好きで、一時期評判店のチーズケーキを買いまくっていましたが、うちのチーズテリーヌよりおいしい商品はありませんでした。
競合よりも自分たちがどんなアイテムをつくり、どうお客様に訴えかけるかが大切だと考えています。定番の伝え方、次の季節限定品の方向性――、考えることはたくさんあります。
この夏の「レモンチーズテリーヌ」、秋の「ラムマロンチーズテリーヌ」ともに大好評でありがたい限りですね。
「やってから考える」がヒットの秘訣
――もうひとつ、業態を問わず「ECをはじめない理由」としてもっとも多かった回答が「ECでの販売と自身の飲食店の相性がよくないと考えているため」という結果が出ていますが、こちらについてはどう思われますか?
遠藤 やってから考えたらいい、と思うんです。
僕が横浜に出店するときにも、地元の知り合いから「花屋がチーズケーキ屋やってもあかんやろ」「あいつ、急におかしなこと言い出したで」って言われていたみたいです。
やってみて結果が出ないなら、やめるのも選択だと思いますが、手をつける前に「相性がよくない」というのはもったいない。
いま店舗営業している方は、何かしら売り物があるはず。「BASE」なら、商材さえあれば誰にでもできる。やり方がわからなければ調べたり、誰かに聞けばいい。
最初に「マツコの知らない世界」に取り上げられたのも、当初は成果がないように思えたInstagram広告を番組関係者が目にしたことが決め手になったと、後に教えてもらいました。
コロナ禍のように、時代が変わるタイミングでは新しいアクションを起こすこと自体が大切です。
まずは商品価値を洗い出すためにも、「BASE」を立ち上げてみる。すぐには結果が出なくても、試行錯誤を続けてみる。そうしてトライ&エラーを繰り返す人が、明日のヒットを生むのだと思います。
――今後はどんな展開を考えていらっしゃいますか?
遠藤 いまは注文してくださるお客様の信頼を裏切らないことだけを考えています。うちの出発
点は花屋ですが、たまたま併設のカフェでとてもおいしいものができてしまった。だから食べてほしい――。
いまも基本姿勢はその延長線上にあります。やたらとアイテム数を増やすようなことは100%ありません。これからもどこよりおいしいチーズテリーヌを、より多くの人のお手元に届けたいですね。
遠藤さんは、ひとりの購買者としての視点からBASEを選択。
美しい包装と写真を用意してECをスタートさせ、周到に準備を重ねて来るべき好機に備えました。
人気テレビ番組はある種の「諸刃の剣」ですが、日々変わる状況に対応し、見事に好機を捉えきりました。
現代のECサイトには、イメージを迷わず具現化できるUIや即応性が求められている。そう痛感させられるお話でした。
ネットショップ作成サービス「BASE」
初期費用、月額費用無料で誰でもかんたんにネットショップを作成することができるサービス。ネットショップ開設実績3年連続No.1。(マクロミル調べ:2020年2月)
https://thebase.in/
ライター紹介
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松浦達也
- ライター/編集者。「食べる」「つくる」「ひもとく」を標榜するフードアクティビストとして、テレビ、ラジオなどで食ニュース解説を行うほか、『dancyu』から一般誌、ニュースサイトまで幅広く執筆、編集に携わる。著書に近著の『新しい卵ドリル おうちの卵料理が見違える』ほか『家で肉食を極める!肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』(ともにマガジンハウス)など。