ライター紹介
このところ、少しずつだけど浸透してきた“町中華”というワード、ざっくりいえば、昭和のころにできた街の中華食堂。特徴は、ラーメン、餃子、チャーハンという中華メニューに加えて、定食やカレーライス、カツ丼などの中華以外のメニューも充実している飲食店のこと。
前回のタンメン(「中華料理人の腕はタンメンでわかる」 下関マグロ流"タンメン10ヶ条")に続き、今回取り上げるテーマは「町中華のオムライス”オムチャイナ”」です。
ところで、「オムライスといえば洋食」と決めつけていませんか?
たしかにね、日本橋の老舗洋食屋さんのたいめいけんで出されている「タンポポオムライス」は有名ですし、おいしいです。
この上の卵にナイフを入れると、こんなふうにふわトロの卵でおおわれるんですね。
これ、たぶんふわとろオムライスの代表なわけですが、わたくしも何度もいただいておりますが、おいしいです。めちゃくちゃおいしいです。
でもね、これだけをオムライスだと思ってほしくないわけですよ。わたくしが子供のころ…そう、昭和の半ば、デパートの食堂なんかでいただく、オムライスは堅焼き卵でケチャップライスが包まれていたんですね。しかし、いつの間にやらオムライスといえば、ふわとろが主流になっていたわけですよ。
いやぁ、これはいかん、ひょっとしたら世の中、ふわとろのオムライスばかりになってしまうかも。今のうちに堅焼きオムライスを探して食べておこうということで、懐かしのオムライスについてあれこれ書いていきます。
オムチャイナとの出会いは突然に
そもそも、私がオムチャイナに出会ったのは新宿御苑の「来々軒」。当時住んでいた家の近所を歩いていたところ、こんな貼り紙を見つけました。
「新宿御苑で名物のオムライス」「当店ベストストワン オムライス 550円」とあります。こりゃ食べなくちゃです。ちなみにこのお店の外観はこんなんです。
のれんも素敵なまさしく町中華であります。
店に入ってみますとU字型のカウンターだけの店内。着席すると、ご夫婦であろうおふたりが切り盛りされておりました。
で、出てきたのがこちら。
ケチャップいっぱいなのが、なんだかテンションあがるよねぇ。ふわとろ系だとデミグラスソースってところが多いけど、やっぱり私はケチャップ派です。
ボリュームもすごく、よく炒められたケチャップライスがおいしかったんですよね。この日以来、あちらこちらの町中華でオムライスを食べ歩くようになったそんな思い出深いお店でございます。
しかし、お別れも突然やってきました。夏の日、来々軒店頭に「突然の閉店の御知らせ」と題された貼り紙があったんですよ。店主が、熱中症にかかり、厨房に立つことを断念したそうです。来々軒さんは新宿御苑前で47年間、営業していらっしゃったんだとか。貼り紙の最後には「グッドラック さようなら 店主夫婦」と書かれていました。
町中華はこうして突然店を閉めることが多いのです。好きなお店の突然の閉店…ポッカリと胸に穴が空いたようでした。
「オムチャイナ」美味しさの秘密
わたくしが町中華のオムライスを食べ歩いて、気づいた「オムチャイナ」の美味しさの秘密を紹介しましょう。
①チキンライスではなくポークライス
町中華の多くは、鶏肉ではなく豚肉のポークライスをオムライスに使うところが多いのです。
きっと、町中華ではメニューにある「チャーハン」をベースにケチャップを加えるお店が多いからでしょうか。また、ラーメンに使われるチャーシューを細かく切ったものを具材として使っているところも多くあります。
②ふわとろじゃなくて、堅焼きで
やはり、オムライスはあくまでも薄焼きの、堅焼き卵がいいね。
あくまでもケチャップライスといっしょに食べるというスタンスがいいのです。
主役はケチャップライスで卵は脇焼。
③中華鍋で作るケチャップライスのうまさ
中華鍋で炒められるケチャップライスは、独特な香ばしさがあるのです。
パラパラ系のところもありますが、多いのはみっしり重いしっとり系で食べ応えのあるタイプ。
④卵は包む系?かぶせ系?
堅焼きの卵焼で包むこともありますが、ちょんとかぶせるだけのものも多いですね。
かぶせる系では、ケチャップライスがちょっと顔をのぞかせていたりするのもご愛敬。
⑤ラーメンの出汁スープを使うから当然うまい
多くの町中華は、ラーメン用に出汁をとったスープをいろんな料理に使います。中華丼に使うのはもちろん、カレーライスに入れるお店もあります。
ラーメンのためにこだわって作った渾身の出汁スープをケチャップライスに使うのだから美味しいに決まってます。
オススメ!早稲田の老舗町中華「メルシー」のオムライス
みなさんにぜひ食べてほしいオムチャイナがあります。お店は早稲田の「メルシー」さん。
- メルシー
-
東京都 新宿区 馬場下町
ラーメン
メルシーさんは、とにかく安くておいしいです。数多くの町中華に通ってきましたが、コストパフォーマンスの高さはダントツです。
このラーメン、いくらだと思います?
なんと400円なんですよ。創業は昭和33年。わたくしと同い年でございます。
さっそく、オムライス(590円)を注文。
けっこう長いこと炒めていらっしゃいます。
そういえば、初めてこちらでオムライスを注文したとき、お店の方から「時間かかりますけど、いいですか?」と言われたことを思い出しました。
炒められたご飯はいったん器にとられます。そして、次に登場したのがフライパン。
すぐに溶き卵を投入するのではなく、しばらく油をフライパンになじませてから卵を投入します。
卵を投入した後も手のひらでフライパンの温度をたしかめながら、丁寧に卵を焼いていきます。
銀のお皿に薄焼き卵が置かれました。まな板の上にはつけあわせの千切りキャベツ。
銀のお皿に入れられた卵焼きの上にポークライスが盛られていきます。
天地を返し、くるりと卵焼きを巻いて、手で整えていきます。町中華の包み系オムライスは、手で整えられることが多いようです。
卵焼きにケチャップがのせられて出来上がり。
はい、運ばれてきました。
くーっ、おいしそう!
いっただきま~す!
けっこう大ぶりでしょ。これで590円とはお安い。
まずは、スプーンの背でケチャップをのばしていきます。
こんなかんじで、まんべんなくのばします。
さて、いただきましょう。
むむむ、おいしい! 薄焼きの卵としっとりとしたポークライスの相性がバツグンです!
スープの旨味を吸ったお米が美味しいのなんの!
このメルシーのオムライスを食べていただけば、町中華のオムライスの良さがきっとわかってもらえるはず。
ひょっとすると今の若い子たちはふわとろのオムライスが主流で、こういった町中華のオムライスを食べたことがないのかもしれませんが、僕としてはとても残念でもったいないことだと思います。
今回紹介したのも、まだまだオムチャイナの広い広い世界のほんの一部にすぎません。町中華へ行ったら、ラーメン・餃子・チャーハンなどの定番もいいですが、ぜひ「オムライス」にもチャレンジしてみてください。
次回は「あなたの知らないカレチャ(カレー炒飯)の世界」を紹介します!お楽しみに〜!