連載:絶滅危惧種にさせない、地味だけれどうまい"和食"の深遠

「日本料理=コース」の潮流に逆らう、カウンター割烹の粋な楽しみ方

あなたは和食が好きですか? 和食ってどんなものだと思いますか?

和食が世界文化遺産に登録され、いま世界が注目している和食。

でも、日本では「和食離れ」が長年叫ばれ続け、中でも「しみじみ美味しい」「滋味溢れる」、そんな言葉が食の世界でもあまり使われなくなったように思います。

だからこそ、いま「滋味溢れる和食の良さをみんなに知って欲しい」。
そんな想いの詰まった"地味だけれどうまい和食の深遠"連載です。

ライター紹介

柏原光太郎
柏原光太郎
1963年東京生まれ。出版社でグルメガイドの取材、編集などをするうちに料理の魅力にはまり、フジテレビ「アイアンシェフ」評議員なども務める。「和の食と心を訪ね歩く会」主宰、「軽井沢男子美食倶楽部」会長。

この十年ほどでしょうか、新しく出来る日本料理店はコースばかりになっています。
 
なぜか? それはお店にとっても客にとっても楽だからです。

店としては余計な食材を仕入れる必要がないのでロスが減って原価率が下がりますし、もしかしたら、めちゃくちゃな注文をする客に腹を立てるストレスもなくなるかもしれません。

いっぽう、客としても座っていればおいしい料理が出てくるため悩む必要がないと、お互いにいいこと尽くめです。

でも、楽ならそれでいいんでしょうか。

新橋の雑居ビルの奥にたたずむ「ほそ川」は、2008年に開店して以来、いつ行っても刺身から珍味、ごはんものまで、アラカルトが20品以上あります。

「なんで、そんな面倒くさいことをやるんですか」と尋ねたところ、主人の細川敦史さんはニコニコしてこう答えました。

「最後に修業した神楽坂『弥生』がアラカルト中心で楽しかったので、独立したら自分もと思っていたんです。

予想以上に原価がかかるので大変なんですが、お客さんと会話しながらメニューを組み立てると、量も調整できるし、新しい料理を考え付くこともあって、自分の勉強になるんです」
 
それでも、所望する客のためにコースもあるのですが、これだって食事のペースや飲み物の種類で臨機応変に対応してくれるのです。

たとえば「天ぷら多めで8000円で」と頼む客もいます。私の場合は会話に集中したいために「まず前菜と刺身までをおまかせで。お椀や焼き物はそのあとに考えます」とわがままな注文をすることがしばしばあります。

「うちの店のスタンスが理解されてきたからか、開店直後は8割がコースでしたが、最近は半々までアラカルトが増えてきました。

難しく考えないで好きなものを食べていただけばいいんです。刺身がいらなかったら、パスしていただいてもかまわないんですよ」

と細川さん。私は開店数年後からの客ですが、最近、新しい生産者を開拓したり、物知りな客に鍛えられ、ほそ川のアラカルトメニューはかなり幅広くなったと思います。

 
この日に作っていただいた「蝦夷鹿と野菜の潮煮」を見ても、潮煮という技法は伝統的ですが、蝦夷鹿をそこに持ってくるのは細川さんの新しいチャレンジでしょう。

 
前菜盛り合わせの中の「芝海老しんじょうのおかき揚げ」は、常連客のリクエストで衣を何度も試作してたどり着いた自信作。

「甘鯛の油焼」は定番ですが、冬にかけて甘くなる蕪ソースに乾燥レモンをアクセントにしたところが細川さんらしい考えです。いずれの料理も、細川さんと相談して1万円のコースに組み込むことが出来ます。

これから冬になると、カニやブリ、クエに加え、ヒグマ、真鴨、蝦夷雷鳥などのジビエ類もメニューに登場する予定です。

「ブリは半分刺身にして、半分はしゃぶしゃぶはどうかな? そのあと真鴨をミンチにしてなにか作ってよ」

そんなキャッチボールをしながら、客側も料理を組み立てることこそ、カウンター割烹の真髄だと私は思います。

ほそ川
住 所
東京都港区新橋2-12-2 HK新橋ビル 5F
電 話
03-3581-8886
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