連載:絶滅危惧種にさせない、地味だけれどうまい"和食"の深遠

奈良のおでんの名店「すぎ乃」が東京へ。新たな名物と、ずっと変わらないもの

あなたは和食が好きですか? 和食ってどんなものだと思いますか? 和食が世界文化遺産に登録され、いま世界が注目しているのが和食。

でも、日本では「和食離れ」が長年叫ばれ続け、中でも「しみじみ美味しい」「滋味溢れる」、そんな言葉が食の世界でもあまり使われなくなったように思います。

だからこそ、いま「滋味溢れる和食の良さをみんなに知って欲しい」。そんな想いの詰まった"地味だけれどうまい和食の深遠"連載です。

ライター紹介

柏原光太郎
柏原光太郎
1963年東京生まれ。出版社でグルメガイドの取材、編集などをするうちに料理の魅力にはまり、フジテレビ「アイアンシェフ」評議員なども務める。「和の食と心を訪ね歩く会」主宰、「軽井沢男子美食倶楽部」会長。2017年12月よりRetty TOP USER PRO。

麻布十番商店街を歩いていると、スタイリッシュな外装と、入口の脇に掲げられた大きな杉玉が目を引く飲食店があります。「すぎ乃 麻布十番」です。

居酒屋よりは高級、でも割烹とは違う、東京だから成り立つ店だと私は思っていましたが、実は本店は奈良県でした。

利尻昆布を使ったすっきりした出汁のおでんを中心にした料理と日本酒の品ぞろえで、もともと地元では人気店だったのですが、馴染みの酒屋さんから「ローカルチャンピオンで満足するな」と発破をかけられ、社長の杉野公一さんが一念発起。

奈良で10年間修業した西嶋宏至さんを店長として、2016年6月に開店しました。

店長の西嶋宏至さん

店長の西嶋宏至さん

「おでんの出汁は本店と一緒ですが、ほかの料理は自由に考えられるので、いまは東京独自の料理が多くなりました」

東京のど真ん中で季節商品で一年中営業するのは、通常の店とは格段に違うむずかしさがありますから、当初はずいぶん苦労したようです。しかしそのおかげで、おでんや豚しゃぶに並ぶ人気料理が生まれました。

「そもそも開店が2016年の5月で夏に向かう時期。おでんを看板にしてもなかなか売れず苦労しました。悩んでいたときに、奈良時代にお土産で用意していたヒレカツサンドが評判だったので、出来立てならもっと美味しいだろうと思ってはじめたんです。いまではおでんの〆の人気商品になりました」

豚しゃぶと同じ宮崎の銘柄豚、あじ豚でつくられた「あじ豚ヒレカツサンド」(1500円)は、柔らかくても甘味がしっかりとあり、くどくないソースが豚の味を引き立てます。

メニューは毎日変わりますが、最初に目に入るのが割鮮(刺身)です。

「開店当時、背伸びして築地の高級魚屋と取引きしていいものを入れたんですが、なかなか売れなくてへこみました。最近、ようやくわかっていただけるようになりましたが」

この日は石川県の天然ブリを辛味大根で絡めた「寒鰤 辛味おろし和え」(1800円)がおすすめ。脂の乗ったブリと大根の辛味のバランスがよく、酒が進みます。

そう、この店のもうひとつのウリが日本酒です。杉野社長は日本中の酒蔵を廻るのが趣味と公言するほどで、西嶋さんも社長と一緒に訪れることもあり、有名酒蔵のほとんどは、すでに来店しているとか。リストをみると納得する品ぞろえです。

そして看板のおでん。「大根は3日間かけて味を染みこませますが、練り物はその場で味を合わせます」というように、食材が持っている味に合わせるため、一品一皿ごとの提供になります。

定番の大根やロールキャベツもいいですが、季節のおでんも頼みたいもの。「宮城のせりと地鶏」は寒い日にぴったりで、たっぷり入ったせりの根っこの渋みにちょっと甘めの出汁が加わり、きりたんぽ鍋を味わっているような感覚です。

少人数ならカウンターでおでん鍋を目の前に西嶋さんと相談しながら、2階はテーブル中心で個室もありますから、豚しゃぶ中心に料理を考えるのがいいかもしれません。

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