Rettyグルメニュースをお読みの皆様、こんにちは。「むむ先生」こと、杉村です。
ライター紹介
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杉村啓
- 日本酒ライター、料理漫画研究家、醤油研究家。 日本酒の基本から歴史・造り方までを熱く語った『白熱日本酒教室』やタモリ倶楽部でも紹介された醤油の奥深さを書いた『醤油手帖』など、食に関する書籍を多数執筆。「むむ先生」として食のコラムや紹介を各メディアで担当。8月末には、グルメ漫画の半世紀を辿る新著『グルメ漫画50年史』を上梓。
「むむ先生の"食"超解説シリーズ」の18回目のテーマは、「たまごかけご飯のたまごと醤油はどう合わせたらいいの?」です。
みんな大好き、たまごかけご飯。
何をかけるかは非常に難しく、日本人最大の、たまごかけご飯問題と言ってもいいでしょう。醤油の人もいれば、連載14回目で紹介した、煎り酒をかける人もいますし、めんつゆ派もいると思います。
今回はその中でも特に、醤油に焦点を当てお話をしましょう。
たまごかけご飯専用醤油は熊本で生まれた
たまごかけご飯と醤油で思いつくのは、たまごかけご飯専用醤油でしょう。日本で最初の専用醤油は、熊本県の橋本醤油が開発しました。
橋本醤油の橋本さんがPTAの役員を務めていた時のこと。両親が忙しい家庭の子供は、朝ご飯を食べていないことに気づきました。
そこで、時間のない朝でも子供達が自ら調理でき、なおかつ安全面を考えて火を使わなくていい、栄養たっぷりの朝ご飯は・・・と考えたときに、たまごかけご飯が浮かんだのです。
そこで、たまごかけご飯を美味しく食べられる醤油を開発すればいいと考えたのですね。
そうして2001年にできあがった「玉子ごはん専用昆布醤油」は、ご飯にかけたときの香りや、やさしい甘味にもこだわっています。
ここでポイントになるのは、熊本県で誕生したということでしょう。
連載2回目でも取り上げたように、九州の醤油は甘いものが多いのです。
というわけで、たまごかけご飯専用醤油は、甘めの味わいのものが多く、それが生卵の持つ繊細な甘味を活かすことに。醤油の味わいが強いと、甘味が消えてしまうのですね。
醤油以外に人気な煎り酒やめんつゆも、ほのかな甘味を持つ点が、たまごかけご飯との相性抜群な理由と言えるのです。
ブームを作り上げた「おたまはん」
たまごかけご飯専用醤油が一躍注目を集めたのは、島根県にある吉田ふるさと村が2002年に販売開始した「おたまはん」の存在が大きいです。
「関東風」と「関西風」という、味わいの違う二種類を販売した「おたまはん」は、300万本以上も売れる大ベストセラーになりました。
その勢いから、吉田ふるさと村では2005年10月30日に「たまごかけごはんシンポジウム」略して「たまシン」を開催。以後は毎年開催し、その日を「たまごかけご飯の日」と制定しています。
鹿児島県枕崎産のかつおダシと、三州三河みりんとで味を調整した少し甘めの醤油で、関東風の方がやや甘さを抑えた味わいです。
普通の醤油とたまごかけご飯の相性はどうなのか?
ここまで見てきたように、基本的にたまごかけご飯専用醤油は、元祖も、ブームになったものも、少し甘味を加えています。そのため、他の商品も基本的には甘めのものが多くなっています。
では甘くない、いわゆる一般的な「醤油」との相性はどうでしょうか。
醤油は大きく分けると五種類あります。
濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油、さいしこみ醤油、白醤油ですね。
たまごかけご飯専用醤油や、ダシ醤油は「しょうゆ加工品」に分類されます。(興味のある人は連載1回目も読んでみてください)
連載1回目、【醤油】濃口・うす口の違いはどうして生まれたの?はこちらから▶︎
濃口醤油は、一番ポピュラーな醤油といっていいでしょう。香りも旨味も濃いこの醤油は、たまごかけご飯に用いると、生卵のほのかな甘味を打ち消してしまいがちです。
ですが、たまごとご飯全体の「味わい」をくっきりと引き立てる効果を持っています。濃口醤油で慣れた人の中には、甘い醤油じゃダメだという人も少なくありません。
淡口醤油は、色は淡いのですが塩分は濃口醤油よりも強く、たまごかけご飯にかける醤油としてはあまりむいていません。
淡口醤油には、ダシの風味を活かす効果があるのですが、旨味が少なめなので、少し物足りなさもでてきてしまいます。料理に用いるのに適した醤油ですが、つけ醤油やかけ醤油に適しているわけではないということですね。
たまり醤油は、濃口醤油よりもさらに濃い旨味を持った醤油です。
簡単に言うと、濃口醤油は大豆50%・小麦50%で造るのに対し、たまり醤油は大豆100%(大豆90%・小麦10%も多い)で造るのです。大豆は発酵すると旨味に、小麦は発酵すると甘味になりますので、旨味がとても強く甘みが少ない醤油ということが、なんとなくわかるのではないかと思います。
濃い旨味は、塩辛さを包み隠す効果があります。そのため、少し塩辛さを感じるぐらいまでたまり醤油をかけると、醤油の旨味が強すぎて、若干胸焼け気味になってしまうこともあります。たまり醤油に慣れていない人は、量の加減が難しいのです。
さいしこみ醤油は、最近では「二段熟成」という言葉でも売られている醤油です。一度醤油を造り、その醤油を塩水の代わりにして、もう一度醤油を造るという、製造期間も原材料も二倍かかるという非常に贅沢な醤油です。
さいしこみ醤油とたまごかけご飯の相性は、かなりいいです。熟成期間に旨味が増えるのですが、このとき甘味も増えるのですね。濃口醤油よりも、感じる甘さが強いため、甘露(かんろ)醤油と呼んでいる地方もあります。
この甘味が、たまごの甘味をさらにふわっと膨らませてくれるのです。
白醤油は、大豆10%小麦90%で造られる醤油です。大豆は発酵すると色が濃く(黒く)なるのですが、大豆が少ないため非常に色が淡く、透き通った琥珀色をした醤油です。
甘味が強いのですが、雑菌が繁殖しないように濃口醤油よりも塩分を強くしているため、甘い醤油というよりは塩辛さの方が先に感じられる醤油です。
淡口醤油と同様に、旨味が少なく、料理に使われることが多いので、そのままかけると少し塩辛さが先に立ってしまいます。白醤油そのものを使うよりは、白醤油をベースにした「白だし」の方が、たまごかけご飯にはよく合います。
食べ方でも味わいは変わる
たまごかけご飯は、食べ方でも味わいが変わる料理でもあります。
1つは、先にたまごを溶き、醤油を加えてよく混ぜたものをご飯にかけるやり方。
2つ目は、ご飯に醤油をかけて醤油ご飯にし、たまごをあとからかけるやり方。
最近流行なのは、エアリーたまごかけご飯と呼ばれる方法でしょうか。黄身と白身を分け、先に白身をご飯にかけてよく混ぜてメレンゲ状にします。そのあとに黄身を載せ、醤油をかけ、黄身を崩しながら食べるのです。
また、トッピングでも味わいが変わったりしますね。広義のトッピングという意味では、牛丼にたまごをかけて食べるのも、牛丼トッピングたまごかけご飯と言えるのではないでしょうか。
色々とご自身で試してみて、自分にとって最も好ましいたまごかけご飯を追求してみてください!
【むむ先生のイチオシ調味料〜たまごかけご飯にトッピングする醤油編〜】
ちょっと変わったトッピングとしては、たまごかけご飯に醤油をかけるというものがあります。
え?当たり前すぎて何を言っているのかわからないと思われた方、もちろんトッピングというからにはただの醤油ではありませんよ。その正体は雲丹醤油!
雲丹を発酵させた魚醤ではなく、雲丹の醤油漬けとも言えるこの醤油。そのままたまごかけご飯に使ってもいいですし、少しだけ加えても雲丹の濃厚な味わいがプラスされます。
ただ、かけすぎると雲丹の風味が強くなりすぎるので、かけるのは少量がオススメです。
■漫画で解説!日本酒教室
日本酒に興味はあるけど、「なんだか難しそう」「どれを選べばいいのかわからない」……。そんなあなたのための“日本酒教室”、はじまりはじまり!詳しくはこちらから http://sai-zen-sen.jp/comics/twi4/nihonshu/0002.html
■グルメ漫画の歴史をまとめた本『グルメ漫画50年史』を出しました
50年にわたるグルメ漫画の歴史を、10年ごとに区切り、当時の食文化からどういう影響を受けてきたのか、そして食文化にどういう影響を与えてきたのかを記しました。
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