生まれは京都の四条大宮。昨年のクリスマスイブに満50歳を迎えた。僕の話ではない。おなじみ「餃子の王将」の話である。
僕が「生涯でもっとも食べている餃子は」と問われたなら、「餃子の王将」と答えるはずだ。学生時代は打ち上げなどでもお世話になったし、いまも事務所の近くにあるから食堂代わりに使っている。一人メシに一人酒、デートから宴会までリーズナブルに受け止めてくれる深い懐……。なんと素晴らしいのだろう。
ところが、当たり前のように日常にあると、認識は偏った状態で固定されてしまったりもする。先日、「餃子の王将」の1号店を初めて訪れてそのことを痛烈に思い知らされた。京都には関東人の知らない「餃子の王将」があった――。
というのも今回の編集担当である京都出身の草深さんが入店するなり「海老の天ぷら食べたい!」と言ったのだ。僕は餃子の王将で「海老の天ぷら」を注文した覚えはないし、それ以前にメニューで見かけた記憶もない。
しかしメニューを開くと確かに「海老の天ぷら」が載っている。草深さんは座るなりこの品を注文。よほどのお気に入りらしい。
待つこと数分……。供された皿の上には、黄金色に輝く小海老の天ぷらがこれでもかというほど山盛りにされていた。
実はこの皿、京都人の彼女が子どもだった頃「テイクアウトで家の食卓にも上っていた」というほど暮らしのなかにあった一皿なのだとか。
箸でひとつつまんで口に放り込む。カリフワッとした衣が歯先に当たったその直後、ブリンッとした食感が口内のやわらかいに弾ける。期待の上を行くサイズと食べごたえ。目の前の皿にはまだ十数個の海老の天ぷらが。卓上の小瓶に入ったスパイス塩をぱらりと散らす。
ちなみに王将の「唐揚」に欠かせないスパイス塩は「特製香辛料」と表記された小袋入りのものが多いが、1号店では豪気に瓶入り。その気になれば使い放題である。
「餃子の王将」のメニューは全店共通ではない。各店オリジナルの皿もある。同店のメニューは①関東以北(信越含む)、②東海以西の本州+四国(以下、関西)、③九州+一部中国地方(以下、九州)という3つのブロックに分かれており、各エリアで標準メニューが設定されている。発祥である"関西"とそれに似た"九州"のメニューは、味の文化圏が違う関東とは異なっている。
例えば関西や九州の「点心・揚物」メニューには関東の店舗ではみかけない「チューリップ」(から揚げ)や「肉団子の唐揚」「肉まん」のほか「小籠包」まである。逆に「醤油ラーメン」のように①の関東以北限定メニューもあるが、ラーメンは味の地域差が大きい。②以西には「こってりラーメン」が、さらに③の九州には「とんこつラーメン」も加わる。
地域メニューに加えて、各店ごとの独自メニューで細かな差異を演出。とりわけ1号店のオリジナルメニューは見逃せない。麻婆茄子や海老マヨ、ジンギスカンに蛸の唐揚、鶏皮の唐揚まで豊富過ぎるほど豊富なラインナップ。一品料理におつまみ、定食からどんぶりまで、同店のオリジナルメニューを数え上げると20種類以上にもなる。
悩ましい。悩ましすぎる……。となれば、続く注文は四条大宮店の名前を冠したこちらの定食だ。
その名もずばり大宮定食。大宮と言っても埼玉県ではない(ちなみに埼玉の大宮駅西口には「GYOZA OHSHO」というオシャレ業態店がある)。京都の四条大宮だから「大宮定食」。皿の上には鶏の唐揚×2、カニ玉、肉団子×3という単品でも人気の高い3種の料理がおかずとして盛られている。自分の胸に手を当ててみる……。
この皿さえあれば他のつまみなど必要ない! という声が聞こえた気がした。
盆上の景色からも「関西」が感じられる。東京とは椀の位置が違うのだ。和定食の場合、ご飯を左手前、汁物を右手前に配するのが一般的にはマナーとされている。食事に際して、利き手に箸を持ち、逆の手に飯碗を持つ。その右に汁椀というのが基本の形。米食文化に慣れ親しんだ日本人としては、持ち手の近くに飯碗を配し、その近くに汁椀を置く。似た狙いでも関西では汁椀の配置が左奥となるケースが多い。
もちろん「餃子の王将」の本店に来たからには、餃子も注文だ!
現在、王将の餃子はセントラルキッチン方式で作られている。工場は、北海道から九州まで全国に4か所。基本的なレシピは同じだという。食べた断面から見たキャベツのカットサイズも約5~10mmと、その印象は東も西も変わらない。ザクザクッ!としたキャベツの食感が実に印象的だ。
差異の源は、季節や品種によるキャベツの違いか、工場でのセントラルキッチンの作り方によるものか、もしくは店舗での焼き方など調理過程由来なのかは、現時点では不明ながら味、食感ともに1号店の餃子は「さすが!」と思える味わいだった(ような気がする)。
多めの酢に風味づけ程度の醤油で風味を増幅させ、ラー油をたらり。大宮定食のご飯をかっこみ、餡のかかった肉団子を噛みしめれば、米の甘味の奥からじわじわと肉の味わいがしみ出してくる。なんとぜいたくで罪作りな味なのだろう。海老の天ぷらもまだまだある。仕方ない。あいつの出番である。
「すみません! 紹興酒、常温で!」
もちろん食べてよし、飲んでさらによし。ここからが「餃子の王将」の本領である。
トプトプトプ、クイッ……。プハーッ! この1号店は極楽である。
- 餃子の王将 四条大宮店
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京都府 京都市中京区 錦大宮町
餃子
ライター紹介
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松浦達也
- ライター/編集者。「食べる」「つくる」「ひもとく」を標榜するフードアクティビストとして、テレビ、ラジオなどで食ニュース解説を行うほか、『dancyu』から一般誌、ニュースサイトまで幅広く執筆、編集に携わる。著書に近著の『新しい卵ドリル おうちの卵料理が見違える』ほか『家で肉食を極める!肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』(ともにマガジンハウス)など。