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連載:ノンフィクション作家・小松成美とタベアルキスト・マッキー牧元の相鉄沿線探訪

都心では味わえない、弥生台に来なくては出会うことのできない料理がここにある

神奈川県の横浜~海老名間を結ぶ「本線」と、二俣川~湘南台間を結ぶ「いずみ野線」の2本からなる「相模鉄道」。

「相鉄」の名で親しまれるこの私鉄が、昨年2017年に100周年を迎えました。

100年という歳月を経て、相鉄の車窓から見える景色は、めくるめく変化を遂げています。

今回は、相鉄が長い歴史をかけ走り続けてきた沿線の街を、Retty TOP USER PROでもあるタベアルキスト・マッキー牧元さんとノンフィクション作家・小松成美さんが探訪するシリーズの第四弾。

連載:ノンフィクション作家・小松成美とタベアルキスト・マッキー牧元の相鉄沿線探訪

今回は、牧元さん、小松さんに弥生台にある「相鉄名店プロジェクト」第一号店である「pétale de Sakura」に訪ねていただきました。

その魅力をマッキー牧元さん自筆の原稿でお伝えいただきます。

ライター紹介

マッキー牧元
マッキー牧元
株式会社味の手帖編集顧問。タベアルキスト。「料理王国」他14媒体で連載中。フレンチから居酒屋まで全国、世界中で年間600食を食べ歩く。2017年7月にRetty・TOP USER PRO就任。

のどかに広がる丘陵の谷間を縫って、相鉄線が走ってゆく。

僕は、車窓から過ぎゆく景色を眺めながら、初めて訪れるレストランに思いを馳せていた。

その小さなフランス料理店は、弥生台駅のすぐそばに、ぽつねんと佇んでいる。

走りゆく電車を見下す丘陵に建てられたその店は、「pétale de Sakura」という。

周囲にまだ数軒しか飲食店はないが、「桜の花びら」と名付けられたその店は、いつも満席だという。

シェフの難波秀行さんは、パトリック・ジェフロワシェフが率いる、フランスはブルターニュ地方にある海辺の町カランテックにある二つ星レストラン「l'Hotel de Carantec」で修行し、その後パリの三つ星「ルドワイヤン」を経て帰国し、「ミクニ」に入り、最後は「ミクニヨコハマ」の料理長兼支配人を務められた方である。

三國氏から絶大な信頼を得て、自らの跡を継がせたいともまで考えられていたというシェフが、なぜ郊外で小さなレストランをやられているのだろう?

経歴を聞いた時に、まず頭に浮かんだことである。

「ブルターニュの「l'Hotel de Carantec」は、近隣の生産物だけで料理を作る。それが基本理念でした。

そのため、生産者たちとの厚い信頼関係ができ上がっていて、朝に勝手口を開けると、近所の農家さんたちが置いていった野菜がどっさりと積んであるのです。

そういうレストランでした。僕は将来そんなレストランが、どうしてもやりたかったのです」。

その思いを叶えるため独立をし、都心から離れたこの場所に店を構えたのだという。それからは3年間、近隣を駆け回り、日々食材を探した。

ダイコン、柚子、ブロッコリー、山ワサビ、玄米、ヤーコン、菊芋、ネギ、穴子、米糀みそ、牛肉、豚肉、卵、豆腐、唐辛子、牛乳、マダイなど、料理に使われている食材の90%以上が、近隣の農家や漁師から仕入れているものである。

「3年間でクルマの走行距離が10万キロを超えてしまいました」。難波シェフはそう言って、笑われた。

だが安定的に材料が入る市場や問屋と違い、季節や生産量によって入手できない日もある。

例えばフランス料理に欠かせない卵は、良質の餌をやり、無理やり生ませないので、味がきれいで濃い。

「でもたくさんできないので、使えない日もあるんです」。シェフは、困ることだろうに、嬉しそうな表情をされた。

「うちのフォンは、卵を産み終えた老鶏でとっています」。

一つ一つの野菜や生産者のことを語る言葉が、優しい。生産者への敬意がにじみ出て、我が子を褒めるかのような、愛情が込められている。

「ズワイ蟹・コンソメコトリヤード・西谷ねぎ」の皿は、魚の出汁がなんとも品が良く、すべてが丸くまとまっている。

あるいは鯛に添えた、大根の皮ごと使ったソースは、口の中で香りが立ち、鯛のうまみを持ち上げながら、どこまでも優しい。

ブルターニュのレストランのスペシャリテである、ソースアモリケンヌを使ったオマール海老の料理は、堂々たるフランス料理の味の深みに、近隣で採れた野菜のたくましさが共鳴する。

また「この牛乳と出会ったことも、この地に店を決めた理由です」という、ホモライズされていない「ハマッ子牛乳」と卵によるデザートは、味によどみがなく、気分を清冽にさせてくれる。

こうしてシェフは、料理人でもある奥様と二人で厨房に立たれ、朝獲れた野菜や魚と話し合い、日々料理を作る。

客席に大きく開けられた窓には、空と桜の木が大きく広がっている。おそらくこれからの季節には、開花した桜と料理が出会う、ときめきの時間がやってくるのだろう。

都心では味わえない、この場所に来なくては出会うことのできない料理が、この店にはある。

そのことを裏付けるかのように、レストランの入り口付近には、10数人となる生産者の方々の写真が、飾られていた。

出来れば食後にその一枚一枚を、丹念に見て欲しい。そのすべての人が、心から、屈託なく笑われている。

料理とは、レストランの役目とは、そういうことなのである。

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