いま世界が注目しているのが和食。でも、日本では「和食離れ」が長年叫ばれ続け、中でも「しみじみ美味しい」「滋味溢れる」、そんな言葉が食の世界でもあまり使われなくなったように思います。
だからこそ、「滋味溢れる和食の良さをみんなに知って欲しい」。そんな想いの詰まった"地味だけれどうまい和食の深遠"連載です。
ライター紹介
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柏原光太郎
- 1963年東京生まれ。出版社でグルメガイドの取材、編集などをするうちに料理の魅力にはまり、フジテレビ「アイアンシェフ」評議員なども務める。「和の食と心を訪ね歩く会」主宰、「軽井沢男子美食倶楽部」会長。2017年12月よりRetty TOP USER PRO。
亀戸と聞いても普段、渋谷や新宿、池袋あたりを根城にしている方には、どのあたりなのかも想像つかないでしょう。
ただ食いしん坊の方々には「メゼババ」「鳥さわ」という高評価店があることで、ここ数年急激に注目されてきました。
よく考えれば御茶ノ水や秋葉原からは総武線で10分前後ですし、錦糸町の隣の駅。錦糸町は半蔵門線で渋谷から一本だから、一度行きさえすれば、通いやすくなります。
その亀戸駅から歩いて10分ほどの割烹「板前 石山光一」をはじめて知ったのはフェイスブックページでした。
お金をかければ盛りだくさんにできるHPと違い、FBページはすべてが同じ仕様ですから、地道に更新し、内容を豊富にしなければ認知されません。偶然タイムラインに流れてきた石山光一のページには、毎日市場に行っている様子や料理がアップされ、誠実に料理と向き合っている様子が感じられたので、あるとき、思い切って出かけたのです。
亀戸駅北口から亀戸天神に向かう途中に店はあります。入口がちょっとごちゃごちゃしていますが、かえって真面目な雰囲気をかもし出しています。
店主の石山光一さんの経歴も異色でした。陸上自衛隊に入隊後、料理の世界に転じ、北海道の料亭「小樽海陽亭」で基礎を学びました。ホテルオークラ札幌の立上げ料理長を務めたあと、在オーストリア大使館の公館料理人となり、亀戸で開業して10年とのこと。当初は「小樽 昇陽亭」と名乗りましたが、だんだん料理の方向性が決まってきたため、6年前に自身の名前に変えたそうです。
「吉兆の湯木さんの弟子だった海陽亭の主人からは基礎をしっかり教えていただきました。それがいまの料理に生きていますね」
メニューは多種多彩ですが、材料は新鮮なものを少量ずつ用意して、使い切ったら終わりというシステムです。
なかでも、これからのおすすめは活ハモ料理。水槽に生かしている淡路島のハモを注文ごとに捌き、骨切りし、料理するもので、「ハモは活けじゃないと、身がすぐにダレるんです」と石山さん。
1キロ程度のものが中心で一本8500円。ふたりならハモしゃぶ、付け焼き、湯引きなどで楽しめます。
写真の「ハモしゃぶ」は、鰹出汁と焼いた骨と葱のみじん切りだけのシンプルなスープにハモをくぐらせて食べますが、活けものだけに身がぷりぷりして弾力感があります。
この時期は毛ガニもおすすめ。
北海道昆布森沖合いで取れた活けのかにを目の前で捌き、足やはさみは氷水で締め、身は蒸して味噌と絡めた「毛ガニの刺身」は単品で9000円。蒸したカニが普通なだけに、透明感のある身は抜群の美味しさです。
刺身といえば、石山光一ではじめて食べたのが「赤目ふぐ」(3500円)。千葉県竹岡で通年とれるふぐで、小型ながら身に味があり、トラフグとは違ったうまさがあります。こちらももちろん、目の前で調理。石山さんはふぐ調理師の免許も持っていますから安心です。
そして地味ですが、石山さんの料理の腕前に目を見張ったのが「野菜の炊き合わせ」(900円)でした。
どの野菜も庖丁仕事がきっちりとされた丁寧な下ごしらえ。こういう仕事が当たり前のように出来る料理人が最近、減ったんですよね。
店は23時までに入れば26時まで営業。常連は食べたいものをいっておまかせが多いそうです(コース6000円から)。
ハモや毛ガニなどを指定したコースだとちょっと高くなりますが、
「だいたいお酒を飲んで1万円くらいを目安にされる方が多いですね。だいたいこのあたりの50代から上の経営者のお客様が多いですが、若いかたも最近はちらほらいらっしゃいます」。
そして「若い客が来ると、がんばり甲斐があります」と笑顔で話す石山さん。
日本料理好きの若者にとって、いまが常連になるチャンスです。
- 板 石山光一
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東京都 江東区 亀戸
日本料理