Rettyグルメニュースをお読みの皆様、こんにちは。「むむ先生」こと、杉村です。
ライター紹介
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杉村啓
- 日本酒ライター、料理漫画研究家、醤油研究家。 日本酒の基本から歴史・造り方までを熱く語った『白熱日本酒教室』やタモリ倶楽部でも紹介された醤油の奥深さを書いた『醤油手帖』など、食に関する書籍を多数執筆。「むむ先生」として食のコラムや紹介を各メディアで担当。8月末には、グルメ漫画の半世紀を辿る新著『グルメ漫画50年史』を上梓。
「むむ先生の"食"超解説シリーズ」の24回目のテーマは、「そもそも塩って何なのだろう?」です。
世界最古の調味料にして、生命活動に欠かせない塩。
我々にとって、これほど重要な調味料は他にありません。人類の歴史は塩との歴史…と言っても過言ではないぐらいなのです。
塩が入っていない料理はなんだか味がぼやけてしまいますし、そもそも和食は、塩や醤油や味噌といった塩味をうまく活かす料理とも言えます。
今回はそんな塩について、特に料理に使うとどういう効能があるのかについてを中心に語っていくことにします。
「塩」は「石」?
他の調味料と塩が異なる点。それは、塩は正確には食べ物ではない、というところにあります。
たとえば同じ調味料として並べられる「砂糖」と比べてみましょう。砂糖はさとうきびや甜菜(さとうだいこん)などの植物から作られる、有機物です。
つまり、生物由来の物質で、お肉や野菜などを食べているのと同じようなものですね。
ところが塩は、岩塩だったり海塩だったりと、採掘をしたり海水を煮つめて作られます。生き物由来ではない、鉱物なのです。どちらかというと、食べ物よりは石に近いというわけです。
というわけで、塩は石なので、エネルギー源、つまりはカロリーはありません。
体を構成するのに必要なものというよりは、体を正常に動かすために必要な役割をしているものなのです。
こういった、鉱物でありながら体には必要で、なおかつ体内で合成できないものを「ミネラル」と言います。塩はミネラルなのですね。
唯一無二の「塩味」
塩味は、甘味、酸味、苦味、旨味と並んで、基本的な味わいのひとつとされています。でも実は、塩味だけは他に代替するものがない、唯一無二の味わいなのです。
たとえば甘味を見てみましょう。
砂糖を食べたときに甘味を感じますが、砂糖だけでしか甘味を感じないわけではありませんよね。はちみつや果物なども甘味を与えてくれますし、体の中では砂糖と同じ役割を果たしてくれます。
ところが塩は、他に塩味を与えてくれるものはありません。体内で塩と同じ役割を果たすものもないのです。
一応、似たような味わいのものは、正確には無いわけではないのですが、人体には有毒だったり不安定だったりして使われていません。塩の代わりになるものは無いと言えるのです。
そのため、塩味は食べているものに入っているかどうか、すぐにわかるようになっています。具体的には、0.2%ぐらいの濃度で、塩味を認識できると言われています。
塩味をおいしいと感じる範囲は?
塩分は、必要不可欠ではあるものの、摂取しすぎると体に悪いものです。そのため、塩を美味しいと感じる範囲は意外と狭くなっています。
具体的には、塩分濃度が0.3%ぐらいで多くの人が「あ、塩味がする」とはっきりわかるぐらいになり、0.9%ぐらいで一番おいしいと感じます。
そして、1.2%程度になると塩味が強いと感じ、ちょっとしょっぱいから薄めたいと思う濃さになります。そしてそれ以上になると、塩辛くてきついと感じます。
海水をなめると、ものすごくしょっぱいと感じますよね。海水の塩分濃度は約3%。あそこまで濃いと、我々はおいしいと感じるより、塩辛いと思うのです。
というわけで、だいたい塩分濃度1%前後がおいしいと感じる塩味と考えるといいでしょう。
実はこれは、体内の塩分濃度と同じです。つまりは血液の塩分濃度が約0.9%なので、体内の塩分濃度を一定に保とうとする濃さが、一番おいしく感じる濃さとも言えるのです。
汗をたくさんかいたりして体内の塩分が失われているときには、塩味が濃いものをおいしいと感じますよね。これも、体内の塩分濃度を0.9%に保とうとする濃さをおいしく感じるからなのです。
このおいしさの範囲は、実はかなり狭いと言えます。
たとえば砂糖の場合、おいしいと感じる範囲は濃度でいうと0.5%〜80%です。ものすごく広いですよね。
でもこれは、砂糖が広いんじゃなくて、塩が狭いのです。そして狭い理由は、塩はエネルギー源ではないからたくさん摂取する必要はなく、体内の塩分濃度を一定に保つために食べるからというわけなのです。
料理における塩の役割
では、料理において塩は、どのように活用されているのかを見てみることにしましょう。
塩味をつける
一番重要な役割は、料理に塩味をつけることです。
といっても、単に塩味をつけるだけではありません。塩は他の味と組み合わせることで、その味を引き立たせたり、和らげたりする性質を持っているからです。
塩味があると、甘味はより強調されます。スイカに塩をかけて食べるのが代表的ですね。
甘味と同様に、旨味も強調されます。ダシをとったとき、そのままで味わうよりも、塩を少し加えた方がしっかりと旨味が引き出され、おいしくなるのです。
酸味や苦味に対しては、塩味はそれぞれの味わいを抑制します。
寿司酢に塩と砂糖を入れるのは、塩によってお酢の酸っぱさを和らげて、甘味を引き立たせる効果があるからなのですね。また、苦いコーヒーに塩を少しだけ入れると苦味が弱くなることが知られています。
というわけで、塩を適切に加えれば、甘味や旨味といった、多くの人がおいしいと感じる味わいが強まり、酸味や苦味が弱まります。
これが「塩味は全体の味を引き締めて、味の輪郭をはっきりさせる効果がある」の正体です。
食べ物の水分を抜く
塩は水と結びつく力が強いため、脱水に利用できたりもします。塩漬けは、食材の水分を塩によって取り除き、保存性を高めたものです。
たとえば魚に塩をふりかけると、塩によって水分が出て、身が引き締まります。こうすることで生臭みを取り除くことができるのです。
野菜に塩をかけると水分が抜けて、やわらかくなります。これを利用したのが、漬物です。
たんぱく質を固まらせる
塩にはたんぱく質を固まらせる効果もあります。卵を茹でるときに、塩を入れるのは、万が一、殻がひび割れてしまった場合に、中身が出てしまわないようにたんぱく質を固めるためだったりします。
たんぱく質を溶かす
一方で、塩にはたんぱく質を溶かす効果もあります。魚や肉の練り物に塩を入れると、最初はやわらかくなるのも、たんぱく質が溶けているからなのです。
酵素の働きを止める
りんごをむいてそのままにしておくと、どんどん色が褐色へと変化します。これは、リンゴに含まれている酵素が、ポリフェノールを酸化させるからです。
塩水はこの酵素の働きを止める効果があるので、塩水につけると変色を防ぐことができるのです。
野菜ジュースや果物ジュースを作るときにも、少しだけ塩を加えることによって、酵素の働きを止めてビタミンCが失われるのを防ぐことができます。
ミネラルの変わりになる
湯豆腐を作るとき、そのままだと「す」が入ります。これは、豆腐の中に入っているマグネシウムなどのミネラルが、加熱するうちに抜け出てしまうからです。
ところが塩水でゆでると、抜け出たミネラルの部分に塩が入り込むため、「す」ができにくくなります。
ほうれん草や枝豆をゆでるときに塩水でゆでると緑色を維持しやすいのも、同様の効果です。
大さじ一杯に気をつけよう
最近はさまざまな塩が販売されるようになり、海塩や岩塩を目にする機会も増えました。そこで気をつけたいのが、レシピに「大さじ一杯」と書かれているときです。
大さじ一杯とは、分量でいうと15mlのこと。つまり、大さじ一杯とレシピに書かれていたら、それは15ml分の塩を料理に加えるということを意味しています。でもここに罠があるのです。
塩を作るときには、不純物などを取り除くため、一度水に溶かしてから再結晶化させることが少なくありません。このとき、長い時間をかけてゆっくり結晶化させると大きな粒が、短い時間で結晶化させると小さい粒になります。
結晶の大きさが変わっても成分が変わるわけではないのですが、料理に使うとなるとここで容量の問題がでてきます。大きな粒の塩は重なり合ったときの隙間も大きくなり、容量が多くなってしまうのです。
つまり、15ml分の塩といっても、結晶の大きい塩と小さい塩とでは、内容量(重さ)が違うことがあるのです。物によっては、同じ体積でも重さは倍以上違うことがあります。
というわけで、大さじ一杯とレシピ通りに作っても、何か味がぼやけている気がするというときには、大きな粒の塩を使っているのかもしれません。
そういうときには、重さを量りましょう。大さじ一杯の塩は、だいたい16gから18gぐらいと覚えておくと、より正確にレシピ通りに作ることができます。
【むむ先生のイチオシ調味料〜塩編〜】
実は、私がここまで調味料にハマったきっかけは「塩」にあります。今回紹介するのは、塩にハマったきっかけとなったものです。
フランスはカマルグ産のペルル・ド・セル(塩の真珠)です。
塩田で塩を作ったときに、最初に現れるフルール・ド・セル(塩の花)を集めたもので、塩でありながらほのかにまろやかさと旨味があり、さまざまな料理を引き立ててくれます。
オリーブオイルと合わせてパンにつけるのが、簡単でなおかつ最高においしいのではまっています。
ちょっと高価ではありますが、料理の味わいを一段階アップさせてくれますよ。
■漫画で解説!日本酒教室
日本酒に興味はあるけど、「なんだか難しそう」「どれを選べばいいのかわからない」……。そんなあなたのための“日本酒教室”、はじまりはじまり!詳しくはこちらから http://sai-zen-sen.jp/comics/twi4/nihonshu/0002.html
■グルメ漫画の歴史をまとめた本『グルメ漫画50年史』を出しました
50年にわたるグルメ漫画の歴史を、10年ごとに区切り、当時の食文化からどういう影響を受けてきたのか、そして食文化にどういう影響を与えてきたのかを記しました。
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