いま世界が注目しているのが和食。いっぽう、日本では「和食離れ」が長年叫ばれ続け、中でも「しみじみ美味しい」「滋味溢れる」、そんな言葉があまり使われなくなったように思います。
だからこそ、いま「滋味溢れる和食の良さをみんなに知って欲しい」。そんな想いの詰まった"地味だけれどうまい和食の深遠"連載。今回は和食からは少し趣向の異なった鍋料理をご紹介します。
ライター紹介
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柏原光太郎
- 1963年東京生まれ。出版社でグルメガイドの取材、編集などをするうちに料理の魅力にはまり、フジテレビ「アイアンシェフ」評議員なども務める。「和の食と心を訪ね歩く会」主宰、「軽井沢男子美食倶楽部」会長。2017年12月よりRetty TOP USER PRO。
店主の森田健司さんとは、3月に彼がこちらの「らかんか」をオープンする前、銀座や渋谷で自然栽培野菜とステーキの店を経営していたころからのお付き合いです。
「今度は自然派薬膳鍋の店をやります」と聞いたときは、いったいどこに以前の店との共通点があるのか、と不思議に思ったのですが、話を聞いて腑に落ちました。
「とにかく自分が好きな自然栽培の野菜を使う店を作りたいと思ったんです。オーガニックな食材とお酒が好きなんで、最初は東南アジアの料理、バクテーを中心にしたバルにしようかと考えたんですが、そこに漢方をいれたらどうかと思いついて、自然栽培の野菜やきのこを使った薬膳鍋になったんです」
もともと、若い頃に無添加のハムやソーセージの加工会社で働き、オーガニックに目覚めた森田さん。その後、山梨で自然栽培の野菜だけを作る農家と出会って、野菜の美味しさを知り、その野菜を美味しく食べさせる料理にこだわり続けた結果、薬膳鍋に行き着いたというわけです。
もうひとつの好物、アルコールの準備も万端で、赤ワイン、白ワインをそれぞれ最適な温度のセラーでコントロールしています。いまの季節なら、オーガニックなビオワインの白がおすすめ。もちろん、日本酒やウイスキーも揃っています。
コースは4800円と6800円の2種類ですが、その違いはきのこと肉の量です。
まず白首夏大根のポタージュで身体を落ち着かせ、夏野菜の盛り合わせをいただきます。
この日は山科ナスの新玉ねぎドレッシング、ズッキーニのステーキ、ダダ茶豆の出汁漬け、もぐらうりと遠野カブと茗荷の水キムチ風、シラスといった具合。そしてお待ちかねの鍋の登場です。
普通、鍋といえば肉から食べて出汁をとったあとに野菜を食べるものですが、こちらではおいしい野菜をいの一番に食べて欲しいというのが森田流。
この日にいただいたのは6800円のコースですが、皿を彩る野菜は、丸オクラ、どじょうインゲン、千住ネギ、空心菜、スイスチャードなど10種類以上。低温栽培のきのこは、平茸、春原木椎茸、白シメジ、たもぎ茸など、こちらも10種類以上が盛られています。
そしてホーローのケトルからひとり仕様の鍋に注がれたスープは、鳩の親鳥の丸と軍鶏ガラ、原木椎茸、香味野菜、本枯れ節、昆布、きのこの端などを使って4時間以上かけて抽出した出汁に、20種類以上の漢方スパイスを入れたもの。この組み合わせにたどり着くまでに幾多の失敗があったそうです。
まずはスープにきのこを半量ほどいれて5分ほど待ち、きのこの旨みをスープに吸わせます。
そして根菜はじっくりと葉野菜はしゃぶしゃぶ程度に火を入れ、野菜のうまさを存分に味わったら肉皿の登場です。
4800円のコースは松坂ポークとNZのラム、写真の6800円なら放牧短角牛とすね肉の団子がつき、ボリュームは200グラム以上。しかもこれ、一人前なのです。
しゃぶしゃぶ程度に火を入れた肉には辛味、酸味、ゴマ風味の醤をお好みで。私は花椒と唐辛子から作った辛味を肉につけて巻いて食べるのがおすすめです。
〆は、きのこ、野菜、肉の出汁をたっぷりと吸ったスープに中華麺をいれ、お好みの醤で調整して、酸辣湯麺風にしてもいいし、坦々麺風でも。
まだまだ暑い日が続きますが、こうしたスパイシーな鍋で大いに汗をかいて、だるさを吹き飛ばすのがいいのかもしれません。
- 自然派薬膳鍋らかんか
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東京都 港区 新橋
薬膳料理