連載:絶滅危惧種にさせない、地味だけれどうまい"和食"の深遠

"洋食は和食の一つ"。割烹の良さと洋食の楽しさ「洋食割烹」の隠れ名物カツサンド

洋食は明治以降の日本が生んだ「和食」のひとつだと私は思っています。

カツレツをとんかつに昇華させたり、ナポリタンという独自のスパゲッティを開発したりと、日本の家庭料理の一ジャンルとして、日本人は洋食を定着させてきたわけです。

町には大衆的な「洋食屋」も数々出来ましたが、それと平行して下町を中心に「洋食割烹」と呼ばれるジャンルの店が生まれました。洋風のおつまみをアテにして酒を楽しみ、最後にビフテキをちょこっといただく、という下町の旦那衆が好みそうなスタイルですが、残念ながらここ十数年、フレンチやイタリアンが一般的になったせいでしょうか、洋食割烹は少なくなっています。ただ、割烹のよさと洋食の楽しさを併せ持つ洋食割烹、もっと増えてもいいんじゃないかなと私は思っています。

三越前にある「宇田川」は、そんな洋食割烹のひとつです。ランチはとんかつやチキンカツなどの揚物を楽しむビジネスマンで数回転する人気店ですが、この店の真骨頂は夜にあります。

店主の宇田川隆直さんは近所にある、知る人ぞ知るステーキ店「誠」で7年間修業し、八百屋だった実家を改装して「宇田川」をはじめました。

メニューのほとんどは、開店当時から変わっていません。オープンカウンターに備えられた鉄板や揚場を駆使し、酸味と甘みのバランスがいいコールスローや、たらば蟹がたっぷりと詰まった蟹クリームコロッケ、牛肉を叩いてレア状態に揚げた肉団子、タルタルソースが絶品のホタテのバター焼き、塩漬けにして茹で最後に鉄板で表面を炙った牛タンなど、家庭料理でも出来そうだけれど、絶対に出来ない料理がつぎつぎと繰り出されます。

そして最後に、店主が選び抜いた和牛「常陸牛」のサーロインを薄く切って焼いてガーリックライスで〆るのがひととおり、これでひとり1万3千円程度。お酒はワイン、焼酎が多いというのも下町らしいチョイスです。

ただ、お腹と財布次第では酒肴を増減させてもかまいませんし、メインをステーキではなくとんかつにすればもっとリーズナブルかつ満腹に仕上がります。そのあたりは店主と相談すればいい、そんな距離感の絶妙さが洋食割烹の良さです。

現在、調理場には隆直さんの息子の伸一さんが立つことのほうが多いとか。 18歳から父親と一緒に仕事をはじめて今年で35年。料理人としていまが一番、脂の乗った時期でしょう。

息子の宇田川伸一さん

息子の宇田川伸一さん

実はこの店、隠れた名物があります。分厚いカツが4切れ、手切りされたキャベツと一緒にトーストされたパンに挟まれ、箱にぎゅうぎゅうに詰め込まれたカツサンドです。

一人前1800円ですが、一度食べると誰もがリピートしたくなる旨さ。1日平均20食は出て、デパートの催事でも人気商品。常連の歌舞伎役者が贔屓筋にといって、一度に300人分を頼んだというエピソードもうなずいてしまいます。

私もこの店を訪れるときはいつもこのカツサンドをお土産に頼んでおきます。帰宅して翌朝、ちょっと炙って食べるカツサンドの旨いこと、これが家族全員の楽しみなのです。

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